
「愛犬が吠え続けて困っている」「留守番させると家の中がめちゃくちゃになる」「突然噛みつくようになった」——このような悩みを抱える飼い主さんは少なくありません。犬の問題行動は、飼い主と愛犬の関係を損ない、最悪の場合は飼育放棄につながることもあります。
しかし、問題行動には必ず原因があり、その原因を理解すれば解決への道が開けます。Merck Veterinary Manualによると、犬の問題行動の多くは恐怖や不安と深く関連しており、適切なアプローチで改善が可能です。
この記事では、犬の問題行動の原因を科学的に解説し、根本から解決するための具体的な方法をご紹介します。愛犬との幸せな暮らしを取り戻すために、ぜひ最後までお読みください。

犬の問題行動とは?飼い主が知るべき基礎知識
問題行動の定義と主な種類
犬の問題行動とは、人間社会で暮らす上で支障をきたす行動の総称です。主な問題行動には以下のようなものがあります。
| 問題行動 | 具体例 |
|---|---|
| 攻撃行動 | 噛みつく、唸る、威嚇する |
| 吠え癖 | 無駄吠え、警戒吠え、要求吠え |
| 分離不安 | 留守番中の破壊、過度な吠え、粗相 |
| 破壊行動 | 家具を噛む、物を壊す |
| 排泄問題 | 室内マーキング、トイレの失敗 |
| 食行動異常 | 食糞、異食症(石や靴下を食べる) |
問題行動は犬からのSOSサイン
重要なのは、問題行動は犬が「悪い子」だから起こすのではないということです。多くの場合、問題行動は犬が感じているストレス、不安、恐怖、あるいは身体的な痛みのサインです。
東京大学の研究によると、深刻な問題行動の多くは犬の恐怖や不安と関連しています。つまり、問題行動を叱って抑えつけるのではなく、その原因を理解し取り除くことが解決への近道なのです。
放置するとどうなるか
問題行動を放置すると、以下のような深刻な結果を招く可能性があります。
行動の悪化:対処しないと問題行動はエスカレートする傾向がある
飼い主のストレス増加:飼い主の精神的健康にも悪影響を及ぼす
飼育放棄のリスク:問題行動は犬の飼育放棄の主要な原因の一つ
事故やトラブル:攻撃行動は人や他の動物を傷つける危険がある
早期に原因を特定し、適切な対処を行うことが何より大切です。
問題行動の5大原因を科学的に解説
社会化不足:子犬期の経験が未来を決める
犬の行動を決定する最も重要な要因の一つが「社会化」です。生後3週間から14週間頃までの「社会化期」は、犬が様々な刺激に慣れ、世界を学ぶ黄金期間です。
この時期に十分な社会化を受けなかった犬は、以下のような問題を抱えやすくなります。
警戒吠え:見知らぬ人や物に対して過剰に反応する
恐怖反応:新しい環境や状況に対する強い恐怖
攻撃性:恐怖から自己防衛のために攻撃的になる
社会化不足による問題行動の多くは警戒吠えのケースが多く、「このモノはなんだ!」「知らない人が入ってくるから追い出さなきゃ!」という心理から生じます。詳しい社会化の方法は子犬の社会化期を逃さない!最適な時期と方法をご覧ください。
ストレスと不安:犬も心の病気になる
犬も人間と同様に、ストレスや不安から心の問題を抱えることがあります。
分離不安は最も一般的な不安障害の一つです。Honda Dogによると、分離不安とは犬が愛着を持っている対象(飼い主など)と離れたときに起こる不安障害で、留守番中に吠え続けたり、物を破壊したり、粗相をしたりといった症状が現れます。
その他のストレス要因には以下があります。
環境の変化:引っ越し、家族構成の変化、新しいペットの追加
運動不足:エネルギーの発散不足によるフラストレーション
精神的刺激の不足:退屈からくるストレス
過密な生活環境:十分なスペースがないことによるストレス
分離不安の詳しい対処法は一人になれない…分離不安の症状と克服法で解説しています。
遺伝的要因:犬種特有の問題行動
犬種によって発現しやすい問題行動が異なることが研究で明らかになっています。日本で飼育頭数が多い4犬種の傾向を見てみましょう。
| 犬種 | 発現しやすい問題行動 |
|---|---|
| 柴犬 | 尾の自傷行動、家族への攻撃行動 |
| トイプードル | 物音に対する過敏な吠え |
| ミニチュアダックスフンド | 分離不安、見知らぬ人への恐怖 |
| チワワ | 来客への吠え、見知らぬ人への攻撃行動 |
これは犬種によって「悪い犬」がいるという意味ではありません。犬種の特性を理解した上で、適切な社会化やトレーニングを行うことで、問題行動を予防・改善することができます。
医学的原因:痛みや病気が隠れている
見落とされがちですが、問題行動の原因が身体的な健康問題にあることは珍しくありません。
PMCの研究論文によると、獣医行動学者が診察した症例の28%から82%が痛みの兆候を示していました。痛みを感じている犬は、以下のような行動変化を示すことがあります。
攻撃性の増加:痛い部分を触られることへの防衛反応
活動性の低下:動くと痛いため動かなくなる
食欲の変化:痛みによる食欲不振
排泄の問題:トイレ🛒に行くのが困難になる
その他、問題行動に関連する可能性のある医学的原因には以下があります。
ホルモン異常:甲状腺機能低下症、クッシング症候群など
神経疾患:脳の異常が行動に影響することがある
消化器疾患:腸の問題が行動に影響することが研究で示されている
肝臓疾患:肝機能の問題が不安や恐怖関連の行動を引き起こすことがある
急に問題行動が始まった場合は、まず愛犬の健康を守る病気予防と早期発見を参考に、獣医師の診察を受けることをお勧めします。
飼い主の対応:無意識に問題を強化していませんか?
PETOKOTOによると、飼い主の対応が知らず知らずのうちに問題行動を強化していることがあります。
よくある間違った対応:
吠えに反応する:犬が吠えたときに声をかけたり、抱き上げたりすると、犬は「吠えれば飼い主が注目してくれる」と学習してしまいます。
罰を与える:叱ったり、物理的な罰を与えたりすることは、一時的に行動を抑制するかもしれませんが、恐怖や不安を増大させ、長期的には問題を悪化させる可能性があります。
一貫性のない対応:ある時は許し、ある時は叱るといった一貫性のない対応は、犬を混乱させます。
過度な甘やかし:犬の要求にすべて応えてしまうと、犬は自分が主導権を握っていると誤解し、要求吠えなどの問題行動につながります。
よくある問題行動と具体的な対処法
分離不安:一人になれない犬を救う方法
分離不安は適切な対処で改善が可能です。以下のステップで取り組みましょう。
症状チェックリスト:
[ ] 飼い主が出かける準備を始めると落ち着きがなくなる
[ ] 留守中に吠え続ける、鳴き続ける
[ ] 留守中に物を壊す
[ ] 留守中にトイレを失敗する
[ ] 帰宅時に異常なほど興奮する
段階的なトレーニング:
短時間から始める:最初は数十秒など、犬が不安を感じる前に戻ってくることから始めます。
徐々に時間を延ばす:犬が落ち着いていられたら、少しずつ離れている時間を延ばします。
出発・帰宅を特別にしない:出かける時も帰ってきた時も、大げさに声をかけないようにしましょう。
一人でいることに良いイメージを:留守番中に特別なおもちゃ🛒やおやつを与え、一人の時間を楽しいものに変えます。
詳しい対処法は一人になれない…分離不安の症状と克服法をご参照ください。
吠え癖:原因別の効果的な対策
吠え癖を解決するには、まず原因を特定することが重要です。
| 吠えの種類 | 特徴 | 対処法 |
|---|---|---|
| 警戒吠え | 見知らぬ人や物音に反応 | 社会化トレーニング、脱感作 |
| 要求吠え | 食事やおやつ、遊びを要求 | 完全に無視する |
| 興奮吠え | 嬉しい時、遊びたい時 | 落ち着くまで待つ |
| 不安吠え | 飼い主がいない時 | 分離不安の治療 |
基本的な対処の原則:
吠えているときは無視:どれだけ吠えても反応しないことで、「吠えても意味がない」と学習させます。
静かな時に褒める:静かにしている時こそ、「お利口ね」と声をかけ、ご褒美を与えます。
代替行動を教える:吠える代わりに「おすわり」や「待て」をするように教えます。
詳細はワンワン止まらない!吠え癖の原因別対処法をご覧ください。
攻撃性:なぜ噛むのか?安全な対処法
犬の攻撃性には様々なタイプがあり、それぞれ異なるアプローチが必要です。
攻撃性の主なタイプ:
恐怖性攻撃:怖いと感じた時の自己防衛
所有性攻撃(リソースガーディング):食べ物やおもちゃを守るための攻撃
縄張り性攻撃:自分のテリトリーを守るための攻撃
痛み関連攻撃:痛い部分を触られた時の反応
警告サインを見逃さない:
犬が攻撃する前には、通常以下のような警告サインを出します。
体が硬直する
目を見開く(白目が見える)
唸る
歯を見せる
耳を後ろに倒す
これらのサインが見られたら、すぐにその場を離れ、犬を刺激しないようにしましょう。
専門家への相談が必要なケース:
人や他の動物を実際に噛んで怪我をさせた
予測できない攻撃がある
攻撃の頻度や強度が増している
攻撃性の問題は危険を伴うため、なぜ噛む?犬の攻撃性の原因と対策を参考にしつつ、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。
破壊行動・食糞・その他の問題
破壊行動
犬が物を壊す原因は主に以下の3つです。
退屈・運動不足:エネルギーの発散先がない
分離不安:飼い主がいない不安から
歯の問題:特に子犬は歯の生え替わりで噛みたがる
対策としては、十分な運動と精神的刺激を与え、噛んでも良いおもちゃ🛒を用意することが効果的です。詳しくは家具を壊す!破壊行動を止める方法をご覧ください。
食糞
食糞(うんちを食べる行動)は飼い主にとって衝撃的ですが、犬にとっては比較的よくある行動です。原因としては以下が考えられます。
栄養不足や消化吸収の問題
退屈やストレス
注目を集めるため(飼い主が反応すると学習する)
母犬から学んだ行動
対策はうんちを食べる…食糞の原因と対策で詳しく解説しています。
科学的に効果のある解決アプローチ
正の強化トレーニング:褒めて伸ばす科学
AKC(アメリカンケネルクラブ)によると、正の強化トレーニングは科学的に最も効果的で安全な訓練方法です。
正の強化の原理:
望ましい行動をした時に報酬(おやつ、褒め言葉、遊びなど)を与えることで、その行動を増やします。例えば、「おすわり」をした時におやつをあげれば、犬は「おすわり」をもっとするようになります。
成功のポイント:
タイミングが命:行動の1〜2秒以内に報酬を与える
一貫性を保つ:良い行動には必ず報酬を与える
小さなステップで:大きな目標は小さなステップに分けて教える
詳しいトレーニング方法は犬のしつけ:信頼関係を築くトレーニング術をご覧ください。
行動療法:脱感作と拮抗条件づけ
問題行動の多くは恐怖や不安が原因です。行動療法では、これらの感情を徐々に変えていきます。
脱感作(系統的脱感作)
恐怖の対象に対して、ごく弱い刺激から始めて徐々に慣れさせていく方法です。例えば、雷が怖い犬の場合、最初は非常に小さな音量で雷の音を聞かせ、犬が落ち着いていられたら少しずつ音量を上げていきます。
拮抗条件づけ
恐怖の対象を、良いもの(おやつなど)と結びつけることで、感情を変える方法です。例えば、来客が怖い犬の場合、来客が来るたびにおやつをもらえるようにすれば、来客=良いこと、という連想に変わっていきます。
行動療法単独で約50%の犬に改善が見られ、薬物療法を併用すると70〜90%の犬に改善が見られるという研究結果があります。
環境管理:問題を起こさせない工夫
問題行動を改善する最も簡単な方法の一つは、問題が起こる状況を避けることです。
トリガーの特定と管理:
来客に吠える → 来客時は別室に移動させる
ゴミ箱をあさる → ゴミ箱に蓋をする、手の届かない場所に置く
窓から外を見て吠える → カーテンを閉める、窓にフィルムを貼る
適切な運動と精神的刺激:
多くの問題行動は、エネルギーの発散不足や退屈から生じます。犬種に合った十分な運動と、知育おもちゃ🛒などによる精神的刺激を与えることで、問題行動を大幅に減らすことができます。
住環境の工夫については犬と暮らす家づくり:安全で快適な住環境も参考にしてください。
愛犬のストレスサインを見逃さない
問題行動を予防・早期発見するためには、愛犬のストレスサインを読み取ることが重要です。
カーミングシグナルとは
みんなのブリーダーによると、カーミングシグナルとは犬が自分や相手を落ち着かせるために見せる行動で、約27種類以上あると言われています。
よく見られるカーミングシグナル:
| シグナル | 意味 |
|---|---|
| あくびをする | ストレスを感じている、自分を落ち着かせようとしている |
| 目をそらす | 緊張している、争いを避けたい |
| 舌なめずりをする | 不安を感じている |
| 体をかく | ストレスを感じている |
| 体を振る | 緊張を解こうとしている |
| 地面の匂いを嗅ぐ | 状況を回避したい |
ストレスの段階
ストレスには段階があり、早い段階で気づくことが重要です。
軽度のストレス:
カーミングシグナルを見せる
少し落ち着きがなくなる
中度のストレス:
耳が後ろに倒れる
尻尾が下がる
パンティング(荒い呼吸)が増える
重度のストレス:
攻撃的な行動
完全に固まる(フリーズ)
逃げようとする
軽度のサインに気づいたら、ストレスの原因から犬を離し、落ち着かせてあげましょう。ストレスサインの詳細はストレスサインを見逃さない!犬のSOSで解説しています。
専門家に相談すべきタイミング
問題行動の中には、飼い主だけでは対処が難しいものもあります。以下のような場合は、専門家への相談をお勧めします。
こんな症状は要相談
重度の攻撃性:人や他の動物を傷つけた、または傷つける危険がある
自傷行為:自分の体を噛む、舐め続けるなど
重度の分離不安:留守番が全くできない
急激な行動変化:突然性格が変わった(病気の可能性)
問題行動が悪化している:対処しても改善しない、むしろ悪化している
獣医行動診療科認定医とは
日本獣医動物行動研究会では、問題行動を専門に扱う「獣医行動診療科認定医」を認定しています。まだ数は少ないですが、深刻な問題行動に悩んでいる場合は、このような専門家への相談が最も効果的です。
薬物療法の選択肢
行動療法だけでは改善が難しい場合、薬物療法を併用することがあります。一般的に使用される薬には、抗不安薬や抗うつ薬(SSRIなど)があり、これらは犬の恐怖心や衝動性を軽減し、行動療法の効果を高めます。
研究によると、行動療法単独では約50%の改善率ですが、薬物療法を併用すると70〜90%の改善率に上がります。薬物療法について詳しくは行動問題に薬は必要?薬物療法の選択肢をご覧ください。
まとめ:愛犬との幸せな暮らしを取り戻すために
犬の問題行動は、決して「治らない」ものではありません。原因を理解し、適切なアプローチで取り組めば、必ず改善の道は開けます。
この記事のポイント:
問題行動は犬からのSOS:叱るのではなく、原因を理解することが大切
主な原因は5つ:社会化不足、ストレス・不安、遺伝的要因、医学的原因、飼い主の対応
科学的アプローチが効果的:正の強化トレーニング🛒、行動療法、環境管理
ストレスサインを見逃さない:早期発見が早期解決につながる
必要に応じて専門家に相談:一人で抱え込まない
問題行動の改善には時間がかかることもありますが、焦らず、根気強く取り組むことが大切です。愛犬との信頼関係を築きながら、一歩一歩前進していきましょう。
愛犬との暮らしをより良くするために、子犬との幸せな暮らし方や犬のしつけ:信頼関係を築くトレーニング術もぜひ参考にしてください。あなたと愛犬の幸せな毎日を心から応援しています。






























