「うちの犬、子犬の頃に十分な社会化ができなかった」「成犬になってから引き取ったけど、人や他の犬を怖がる」──こうした悩みを抱える飼い主さんは少なくありません。社会化期を逃してしまったら、もう手遅れなのでしょうか?
答えは「NO」です。専門家の研究によると、犬の社会化に「遅い」はありません。成犬になってからでも、適切な方法で時間をかければ、社会化は可能です。
この記事では、成犬の社会化がどこまで可能なのか、そして具体的にどのようなトレーニング🛒をすればよいのかを、科学的根拠とプロの知見をもとに詳しく解説します。
成犬の社会化は本当に可能なのか:科学的見解
まず、成犬の社会化について科学的な事実を整理しましょう。

社会化期とは何か
犬の社会化期とは、生後3週間~12、13週齢(約3~4ヶ月)までの期間を指し、この時期に新しい刺激を最も受け入れやすく、怖がらずに学習できます。
しかし、動物行動学の専門家によると、社会化期を過ぎたからといって社会化が不可能なわけではありません。脳の可塑性(変化する能力)は成犬になっても残っており、学習は可能です。
子犬と成犬の社会化の違い

| 項目 | 子犬(社会化期) | 成犬 |
|---|---|---|
| 学習速度 | 速い | ゆっくり |
| 必要な時間 | 短期間 | 長期間(数ヶ月~数年) |
| 恐怖反応 | 弱い | 強い(過去の経験による) |
| 変化への抵抗 | 少ない | 大きい |
| トレーニング難易度 | 易しい | 難しい |
獣医行動学の研究では、成犬は子犬と異なり、これまでのネガティブな経験の積み重ねが壁になっているため、一つひとつの物事を乗り越えるには時間がかかると指摘されています。
成犬でも変われる理由
成犬の社会化が可能な理由は、以下の脳科学的メカニズムにあります:
神経可塑性:成犬でも新しい神経回路は形成できる
学習能力:経験を通じて行動を修正できる
記憶の書き換え:恐怖記憶を良い記憶で上書きできる
ただし、子犬期ほど柔軟ではないため、より多くの反復と時間が必要です。
犬の気持ちを理解するコミュニケーション全般については、犬のコミュニケーション:気持ちを読み解くで詳しく解説しています。
成犬の社会化「できること」と「難しいこと」
現実的に、成犬の社会化でどこまで改善できるのでしょうか?
✅ 改善可能なこと
専門家の実践データによると、以下は成犬でも十分改善できます:
**1🛒. 特定の刺激への恐怖反応**
車の音への過剰反応 → 慣らして落ち着ける
インターホンへの吠え → 条件付けで改善
特定の人や犬への警戒 → 段階的に慣れる
2. 人との信頼関係構築
飼い主以外の人への警戒 → 徐々に受け入れられる
触られることへの恐怖 → ポジティブな経験で克服
3. 他の犬との適切な距離感
過度の興奮や恐怖 → 落ち着いた交流ができるように
攻撃的な反応 → 適切な距離を保てるように
4. 新しい環境への適応
初めての場所での固まり → 探索できるように
パニック反応 → 落ち着いて対処できるように
⚠️ 時間がかかる・困難なこと
一方、以下は改善に長期間(1年以上)を要するか、完全な克服が難しい場合があります:
1. 深刻なトラウマ
虐待を受けた犬の人間全般への恐怖
犬に襲われた経験による犬恐怖症
2. 遺伝的な気質
生まれつき極度に臆病な性格
犬種特有の警戒心の強さ(一部の牧羊犬や和犬)
3. 長期間の隔離経験
パピーミル出身で何年も閉じ込められていた犬
野犬として育ち、人との接触が皆無だった犬
これらの場合でも「改善不可能」ではなく、「より専門的な支援が必要」という意味です。
社会化不足による問題行動については別の記事で詳しく解説しています。
成犬の社会化トレーニング:6つの基本原則
ドッグトレーナーの専門家が推奨する、成犬の社会化トレーニング🛒の原則を紹介します。
原則1:決して焦らない
最も重要な原則は、焦らないことです。
子犬なら1週間で慣れることが、成犬では3ヶ月かかることもある
「早く治したい」という焦りは逆効果
犬のペースを尊重し、小さな進歩を喜ぶ
専門家の調査によると、飼い主が焦って無理強いすることが、トレーニング失敗の最大の原因です。
原則2:段階的に進める
いきなり最終目標を達成しようとせず、小さなステップに分けます。
例:他の犬に慣れさせる場合
遠くから他の犬を見る(50m以上)
少し近づく(30m)
さらに近づく(10m)
すれ違う
短時間並んで歩く
鼻先での挨拶
一緒に遊ぶ
各ステップで犬がリラックスできていることを確認してから次に進みます。
原則3:ポジティブな関連付け
新しい刺激を良いことと結びつけます。
基本的な方法:
怖い刺激が現れる → 大好きなおやつ🛒を与える
刺激が消える → おやつも終わり
これを繰り返すと、犬の脳内で「その刺激 = 良いこと」という結びつきができます。
原則4:無理強いは絶対NG
犬が明らかに嫌がっているのに続けることは逆効果です。
ストレスサインを見逃さない:
あくび
舌をペロペロ舐める
目をそらす
耳を後ろに倒す
体を硬くする
震える
これらのカーミングシグナルが出たら、すぐに距離を取るかトレーニングを中断します。
原則5:一貫性を保つ
家族全員が同じ方針でトレーニングすることが重要です。
ある人は厳しく、別の人は甘い → 犬が混乱
今日はOKで明日はNGなど、対応が変わる → 学習できない
統一したルールを決め、記録をつけながら進めましょう。
原則6:成功体験を積み重ねる
「できた!」という成功体験が、犬の自信につながります。
最初は簡単な課題から
必ず成功できるレベルで終わる
小さな進歩を大げさに褒める
失敗体験ばかりだと、犬は「やっぱり怖い」と学習してしまいます。
具体的なトレーニング方法:ステップバイステップガイド
実際のトレーニング手順を、目的別に解説します。
ケース1:人への恐怖を克服する
目標: 知らない人が近づいても落ち着いていられる
ステップ1(1~2週間):遠くから観察
協力者に10m以上離れた場所に立ってもらう
犬が落ち着いていられる距離を見つける
その距離でおやつ🛒を与える
1日5~10分、週3~4回
ステップ2(2~4週間):距離を縮める
犬がリラックスしていたら、次の日は1mだけ近づける
緊張していたら、前の距離に戻る
焦らず少しずつ
ステップ3(4~8週間):接触
協力者が手におやつを持ち、犬に差し出す
犬が自分から近づいて食べるのを待つ
無理に触らない
ステップ4(8週間~):タッチ
犬が慣れてきたら、おやつを与えながら軽く首を撫でる
1秒だけ触って離れる
徐々に時間を延ばす
ケース2:他の犬への反応を改善する
目標: 散歩中に他の犬とすれ違っても吠えない
準備: 穏やかで社会化できている犬を協力犬として用意
ステップ1(1~3週間):視覚的な慣れ
協力犬を遠くから見せる(50m以上)
犬が吠えずに落ち着いていられる距離を探す
落ち着いていたらおやつ
吠えたら距離を広げる
ステップ2(3~6週間):距離を縮める
週単位で1~2mずつ近づける
犬が協力犬を見て落ち着いていたら大量のおやつ
吠えそうになったら注意を飼い主に向けさせる
ステップ3(6~10週間):すれ違い練習
十分離れた状態ですれ違う
おやつを与え続けながら通過
成功したら次回は少し近い距離で
ステップ4(10週間~):挨拶練習
協力犬との鼻先での挨拶(1~2秒)
短時間並んで歩く
徐々に時間を延ばす
他の犬との適切な付き合わせ方については、他の犬との上手な付き合わせ方も参考にしてください。
ケース3:音への過剰反応を減らす
目標: インターホンや雷の音でパニックにならない
ステップ1(1~2週間):録音音源での脱感作
スマホで音を録音
最小音量で再生しながらおやつ
音が鳴る = 良いことが起こる、と学習
ステップ2(2~4週間):音量を上げる
犬が落ち着いているなら、少しずつ音量を上げる
反応したら音量を下げる
常におやつとセット
ステップ3(4~8週間):実際の音
協力者に実際にインターホンを鳴らしてもらう
音が鳴る直前におやつ🛒
鳴っている間もおやつ
ステップ4(8週間~):反応の置き換え
音が鳴ったら「マテ」や「オスワリ」の指示
できたら大量のおやつ
吠える代わりに座る、という行動を定着させる
プロの助けを借りるべきタイミング
以下の場合は、ドッグトレーナーや獣医行動学の専門家に相談しましょう。
専門家が必要なケース
攻撃行動が深刻
- 人や犬に噛みついて怪我をさせた - 飼い主にも攻撃的
パニック発作
- 特定の刺激で制御不能になる - 自傷行為(尻尾を噛む、壁に頭をぶつけるなど)
3ヶ月以上改善が見られない
- 毎日トレーニングしても全く進歩しない - むしろ悪化している
多頭飼いでの問題
- 家の中の他の犬との関係が悪化 - 攻撃的になっている
専門家の種類と選び方
| 専門家 | 対応範囲 | こんな時に |
|---|---|---|
| ドッグトレーナー | 基本的な社会化、しつけ | 軽度~中度の問題 |
| 獣医行動学専門医 | 深刻な問題行動、投薬治療 | 重度の恐怖症、攻撃行動 |
| 犬の保育園 | グループでの社会化 | 他の犬との交流訓練 |
資格を持ち、ポジティブトレーニングを実践している専門家を選びましょう。
よくある失敗と対処法
成犬の社会化トレーニングでよくある失敗例と、その回避法を紹介します。
失敗1:焦りすぎる
症状: 1週間で効果が出ないと諦める、無理に次のステップに進む
対処法:
最低3ヶ月は続ける覚悟を持つ
進捗を週単位ではなく月単位で評価
小さな変化に気づき、記録する
失敗2:ご褒美のタイミングが遅い
症状: 良い行動の数秒後におやつ🛒を与える
対処法:
良い行動と同時(0.5秒以内)におやつ
クリッカーを使うとタイミングが合わせやすい
練習あるのみ
失敗3:恐怖の原因を無視する
症状: 犬が怖がっているのに「大丈夫だよ」となだめるだけ
対処法:
まず恐怖の原因から距離を取る
なだめるより、おやつで気をそらす
無理に近づけない
失敗4:一貫性がない
症状: 今日は厳しく、明日は甘く
対処法:
家族でルールを統一
トレーニング日誌をつける
決めたことは全員が守る
失敗5:ご褒美の価値が低い
症状: 普段のフードをご褒美に使う
対処法:
特別なおやつを用意(茹でたささみ、チーズなど)
トレーニング時だけ与える特別なもの
犬が本当に喜ぶものを見つける
よくある質問(FAQ)
Q1: 何歳まで社会化トレーニングは有効ですか?
A: 専門家の見解では、「社会化に遅いはない」とされており、年齢に関係なく改善は可能です。ただし、高齢犬(10歳以上)は体力や認知機能の衰えもあるため、より慎重に、短時間のセッションで行う必要があります。
Q2: トレーニングはどのくらいの頻度で行うべきですか?
A: 理想的には毎日5~10分の短いセッションを行います。長時間の一度のトレーニングより、短時間を頻繁に繰り返す方が効果的です。ただし、犬が疲れていたり体調が悪い日は無理せず休みましょう。
Q3: おやつに頼りすぎると、おやつなしでは言うことを聞かなくなりませんか?
A: 正しくトレーニングすれば問題ありません。最初は毎回おやつを与え、行動が定着してきたら徐々に間欠的(時々)に変え、最終的には褒め言葉や撫でることだけで十分になります。これを「報酬のフェードアウト」と呼びます。
Q4: 保護犬を引き取りました。過去が分からないのですが、どこから始めればよいですか?
A: まず数週間は家で落ち着かせ、信頼関係を築くことが先決です。その後、犬が何を怖がり、何を受け入れられるかを観察し、最も易しい課題から始めましょう。保護犬の場合、専門家のサポートを受けることを強くお勧めします。
Q5: トレーニング中に犬が吠えたり唸ったりします。続けるべきですか?
A: いいえ、すぐに中断してください。吠えや唸りは「これ以上は無理」というサインです。距離を取り、より簡単なステップに戻りましょう。無理に続けると、恐怖が悪化し、トラウマになる可能性があります。
Q6: 社会化トレーニングにかかる費用はどのくらいですか?
A: 自宅で飼い主が行う場合は、おやつ🛒代のみ(月1,000~3,000円程度)。プロのトレーナーに依頼する場合、個人レッスンで1回5,000~15,000円、グループレッスンで1回3,000~8,000円程度が相場です。重度の問題の場合、獣医行動学専門医の診察は1回10,000~30,000円程度です。
まとめ:成犬の社会化は「遅すぎる」ことはない
成犬の社会化は、子犬期ほど簡単ではありません。しかし、決して不可能ではありません。
成功のための5つの鍵
焦らず、犬のペースで進める
段階的に、小さなステップに分ける
ポジティブな関連付けを徹底する
ストレスサインを見逃さず、無理強いしない
必要なら専門家の力を借りる
専門家の研究が示すように、成犬は既に特定の習慣や行動パターンを身につけていますが、時間と幾度もの繰り返しによって、新しい学習は可能です。
「うちの犬はもう5歳だから」「保護犬だから難しい」と諦める必要はありません。適切な方法で、愛情と忍耐を持って取り組めば、犬も飼い主も より幸せな生活を送れるようになります。
犬の行動やコミュニケーションについてさらに学びたい方は、犬に好かれる人・嫌われる人の違いや初対面の犬への正しい接し方マナーも参考にしてください。






