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愛犬の健康を守る病気予防と早期発見

お腹が膨らむクッシング症候群の真実

お腹が膨らむクッシング症候群の真実の画像

愛犬のお腹がぽっこり膨らんできた...「最近太ったのかな」「年を取ったせいかな」と思っていませんか?実はその変化、単なる肥満や加齢ではなく、クッシング症候群という病気のサインかもしれません。

クッシング症候群は犬の内分泌疾患(ホルモンの病気)の中で最も発生が多い病気です。早期に発見して適切な治療を行えば、愛犬の生活の質を維持しながら長く一緒に過ごすことができます。この記事では、お腹の膨らみの原因から診断方法、治療法、食事管理まで詳しく解説します。

クッシング症候群とは?お腹が膨らむ理由

クッシング症候群は、正式名称を副腎皮質機能亢進症といいます。腎臓の近くにある副腎という小さな臓器から、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されることで、体にさまざまな異常が起きる病気です。

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コルチゾールは本来、ストレス対応や代謝調節に欠かせないホルモンですが、過剰になると問題を引き起こします

では、なぜお腹だけがぽっこり膨らむのでしょうか?その理由は主に3つあります。

**1🛒. 筋肉の萎縮** 過剰なコルチゾールは筋肉を分解してしまいます。特に腹筋が弱くなるため、内臓を支える力が低下し、お腹が垂れ下がってきます。

2. 肝臓の腫大 コルチゾール過剰は肝臓にも影響を与え、肝臓が大きく腫れてきます。これがお腹の膨らみをさらに目立たせます。

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3. 脂肪の蓄積 腹部に脂肪が蓄積しやすくなり、いわゆる「ポットベリー(太鼓腹)」と呼ばれる特徴的な体型になります。

この「ポットベリー」はクッシング症候群の最も特徴的な外見の変化です。しかし、多くの飼い主さんは「単に太った」「年を取って筋力が落ちた」と誤解してしまいがちです。

愛犬の健康を守るためには、日頃から体の変化に気を配ることが大切です。詳しくは愛犬の健康を守る病気予防と早期発見もご覧ください。

見逃さないで!クッシング症候群の主な症状

クッシング症候群には、お腹の膨らみ以外にもいくつかの特徴的な症状があります。これらを知っておくことで、早期発見につながります。

ポットベリー:お腹の膨らみ

前述のとおり、腹筋の弱化と脂肪蓄積、肝臓肥大が組み合わさることで、お腹だけがぽっこりと膨らんできます。

クッシング症候群の犬の多くは「ポットベリー」と呼ばれる膨らんだお腹を呈します。これは腹部臓器周囲の脂肪増加、皮膚のたるみ、臓器が重くなることによるものです

飼い主🛒さんへのアドバイス: 愛犬の体型の変化を定期的に写真で記録しておくと、徐々に進行する変化にも気づきやすくなります。

多飲多尿:異常な水の摂取

クッシング症候群で最も気づきやすい症状が多飲多尿です。

目安として、犬が体重1kgあたり100ml以上の水を継続的に飲むようになると「多飲」状態と判断されます。例えば5kgの犬なら500ml以上、10kgの犬なら1リットル以上が目安です。

多飲に伴い、排尿回数や量も増加します。夜中にトイレに起きる回数が増えたり、室内での粗相が増えたりすることもあります。

この症状は糖尿病でも見られるため、正確な診断が必要です。多飲多尿について詳しくは多飲多尿は危険信号?犬の糖尿病を知るをご参照ください。

食欲亢進と体重増加

コルチゾールには食欲を刺激する作用があります。そのため、クッシング症候群の犬は異常に食欲が増し、常に空腹を訴えるようになります。

矛盾するようですが、筋肉は減少していくのに体重は増加するという現象が起きます。これは筋肉が脂肪に置き換わっているためです。

皮膚・被毛の変化

クッシング症候群は皮膚や被毛にも影響を与えます。

  • 左右対称の脱毛: 体幹部を中心に、左右対称に毛が抜けていきます

  • 皮膚が薄くなる: 皮膚が薄くなり、血管が透けて見えることもあります

  • 皮膚感染症の繰り返し🛒 免疫力が低下するため、皮膚感染症を繰り返しやすくなります

クッシング症候群の犬の約50%は診断時に尿路感染症を併発しています

皮膚のトラブルが続く場合は、アレルギーだけでなくクッシング症候群の可能性も考慮すべきです。詳しくはかゆがる愛犬:アレルギーの原因特定法もご覧ください。

クッシング症候群の3つの原因

クッシング症候群には主に3つのタイプがあります。原因によって治療法も異なるため、正確な診断が重要です。

下垂体性クッシング症候群(80-90%)

犬のクッシング症候群の約80-90%はこのタイプです

脳の下垂体という部分に小さな腫瘍(多くは良性)ができ、副腎を刺激するホルモン(ACTH)を過剰に分泌します。その結果、副腎が刺激され続け、コルチゾールが過剰に産生されます。

副腎性クッシング症候群(10-20%)

副腎そのものに腫瘍ができるタイプです。腫瘍は良性(腺腫)の場合も悪性(腺癌)の場合もあります。

副腎腫瘍は下垂体からの指令とは関係なく、自律的にコルチゾールを過剰産生します。

医原性クッシング症候群

ステロイド薬(プレドニゾロンなど)を長期間使用することで発症するタイプです。

アレルギー性皮膚炎や免疫疾患の治療でステロイドを長期使用している場合に起こりえます

このタイプは原因となっている薬を徐々に減量することで改善が期待できますが、急に薬を中止すると副腎不全を起こす危険があるため、必ず獣医師の指導のもとで行う必要があります。

好発犬種と発症しやすい年齢

クッシング症候群は特定の犬種で発症しやすい傾向があります。

好発犬種:

  • プードル

  • ダックスフンド

  • ボストンテリア

  • ヨークシャーテリア

  • マルチーズ🛒

  • ビーグル

クッシング症候群は9~11歳前後の中高齢の犬でよくみられる疾患です。下垂体性、副腎性どちらのタイプも8歳くらいから発生が増える傾向にあります。

日本でよく飼育されている小型犬に好発する傾向があるため、中高齢の小型犬を飼っている飼い主さんは特に注意が必要です。

診断方法:愛犬のクッシング症候群を見つける検査

クッシング症候群が疑われる場合、獣医師はいくつかの検査を組み合わせて診断を行います。

一般検査

まずは基本的な検査から始めます。

血液検査

  • 肝酵素(ALP、ALT)の上昇

  • 高コレステロール血症

  • 高血糖

尿検査

  • 尿比重の低下(薄い尿)

  • 尿路感染症の有無

エコー検査

  • 副腎の大きさや形状の確認

  • 肝臓の腫大の確認

血液検査の結果の読み方について詳しくは血液検査の結果の見方:数値が意味することをご参照ください。

特殊検査

一般検査でクッシング症候群が疑われる場合、確定診断のための特殊検査を行います。

ACTH刺激試験 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を注射し、注射前後のコルチゾール値を測定します。この検査でクッシング症候群の約80%が診断できます

低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDS) 多くの専門家はこの検査がクッシング症候群の診断に最も優れた検査と考えています

尿中コルチゾールクレアチニン比 自宅で採取した尿を検査することで、スクリーニング検査として使用されます。

定期的な健康診断で早期発見することが重要です。詳しくは年に何回必要?犬の健康診断と検査内容をご覧ください。

治療法:クッシング症候群とどう向き合うか

クッシング症候群の治療法は原因によって異なります。

内科治療(投薬)

最も一般的な治療法は投薬による内科治療です。

トリロスタン(商品名:ベトリール)はFDAが承認した、下垂体性・副腎性両方のクッシング症候群に有効な薬剤です

トリロスタンは副腎でのコルチゾール産生を抑制する薬で、多くの場合、投薬🛒開始から数週間で症状の改善が見られます。ただし、この薬は生涯にわたって服用し続ける必要があります。

投薬中は定期的にACTH刺激試験を行い、薬の量を調整していきます。

外科治療

副腎腫瘍の場合 転移がなく手術が可能な場合、副腎腫瘍を摘出する外科手術が推奨されます。手術が成功し腫瘍が悪性でなければ、完治の可能性があります

下垂体腫瘍の場合 下垂体の手術は技術的に非常に困難で、リスクも高いため、一般的には内科治療が選択されます。

医原性の場合

ステロイド薬が原因の医原性クッシング症候群では、原因となっている薬を段階的に減量していきます。

重要: 急にステロイドを中止すると、副腎皮質機能低下症(アジソン病)を引き起こす危険があります。必ず獣医師の指導のもと、ゆっくりと減量してください。

クッシング症候群の犬の食事管理

クッシング症候群の犬には適切な食事管理が非常に重要です。

クッシング症候群の犬のほとんどは脂質代謝にトラブルを抱えているため、「低脂肪」にすることが最も重要な食事対策になります

食事管理の5つのポイント:

1. 低脂肪食 脂肪は乾燥重量の12%未満を目標にします。高脂肪食は膵炎のリスクを高めます。

2. 高繊維食 繊維質は消化をサポートし、血糖値の安定にも役立ちます。

3. 良質なタンパク質 鶏ササミ🛒、鶏胸肉、白身魚、鹿肉、馬肉などの低脂肪タンパク質を選びましょう。

4. 少量頻回の食事 1日の食事を数回に分けて与えることで、消化の負担を軽減し、血糖値の安定にもつながります。

5. 塩分控えめ 高血圧のリスクがあるため、塩分は控えめにしましょう。

食事療法について詳しくは腎臓病の犬に最適な食事療法とは肥満は万病のもと:犬の肥満が招く病気もご参照ください。

予後と寿命:治療すればどのくらい生きられる?

クッシング症候群と診断されたとき、多くの飼い主さんが心配するのは「あとどのくらい一緒にいられるのか」ということでしょう。

治療の有無で大きく変わる生存期間

2020年のイギリスの研究によると:

  • 治療ありの中央生存期間:521日

  • 無治療の中央生存期間:178日

つまり、治療を行うことで約3倍も長く生きられる可能性があるのです。

適切な治療と管理により、多くの犬が2年以上の良好な生活を送ることが可能です

注意すべき合併症

治療せずに放置すると、以下のような重篤な合併症のリスクが高まります:

  • 糖尿病

  • 血栓塞栓症

  • 高血圧

  • 急性膵炎

  • 腎不全

これらの合併症は命に関わることもあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。

完治は難しくてもQOLは維持できる

クッシング症候群は完治が難しい病気ですが、適切な治療と管理によって症状をコントロールし、愛犬の生活の質(QOL)を維持することは十分に可能です。投薬によって多くの異常な症状は数週間で改善が見られ、皮膚や被毛の改善には数ヶ月かかることもありますが、確実に良くなっていきます。

まとめ:愛犬のお腹の膨らみに気づいたら

愛犬のお腹がぽっこり膨らんできたら、「太った」「年を取った」で片付けずに、クッシング症候群の可能性を考えてみてください。

こんな症状があれば要注意:

  • お腹だけがぽっこり膨らむ

  • 異常に水を飲む、おしっこ🛒が多い

  • 食欲が異常に増えた

  • 左右対称の脱毛

  • 皮膚感染症を繰り返す

これらの症状が複数見られる場合は、早めに動物病院を受診することをお勧めします。

クッシング症候群は早期発見・早期治療が予後を大きく左右する病気です。完治は難しくても、適切な治療と食事管理によって、愛犬と長く幸せな時間を過ごすことができます。

愛犬の健康管理について詳しくは愛犬の健康を守る病気予防と早期発見もぜひご覧ください。大切な家族である愛犬のために、日頃から体の変化に気を配り、気になることがあれば早めに獣医師に相談しましょう。

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