愛犬の毛が異常に抜ける、薄くなってきた、部分的にハゲができた──こんな症状が見られたら、何らかの病気のサインかもしれません。犬の脱毛は、換毛期の自然な抜け毛とは異なり、様々な皮膚疾患や全身性の病気によって引き起こされます。
この記事では、犬の脱毛を引き起こす主な10パターンの原因を、脱毛のタイプ別に詳しく解説します。脱毛パターンから原因を推測する方法、診断、治療、予防法まで、獣医師の視点から包括的に説明します。
犬の脱毛とは?換毛期との違い
犬の脱毛には、生理的な換毛期の抜け毛と、病的な脱毛があります。

正常な換毛期
多くの犬種では、春(3~5月)と秋(9~11月)の年2回、換毛期があります。
特徴:
全身の被毛が均等に抜ける
新しい毛が生えてくる
皮膚に異常なし(赤み、フケ、かさぶたなし)
痒みなし
全身状態は良好

病的な脱毛
何らかの病気による脱毛です(参考:犬の脱毛の原因)。
特徴:
部分的、または左右対称の脱毛
皮膚に異常がある(赤み、フケ、色素沈着など)
痒みを伴うことが多い
毛が再生しない、または遅い
換毛期以外の時期に起こる
重要: 換毛期以外で異常な脱毛が見られたら、必ず動物病院を受診してください。
脱毛のパターンによる分類
脱毛のパターンから、ある程度原因を推測できます。
1. 対称性脱毛(左右対称)
体の両側に同じパターンで脱毛が起こります。
主な原因:
ホルモン異常(甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)
遺伝性疾患
特徴:
痒みがない、または軽度
進行がゆっくり
2. 非対称性脱毛(部分的、ランダム)
特定の部位や、ランダムに脱毛が起こります。
主な原因:
感染症(細菌、真菌、寄生虫)
外傷
特徴:
痒みを伴うことが多い
進行が早いこともある
3. 円形脱毛
円形~楕円形の脱毛斑ができます。
主な原因:
特徴:
境界が明瞭
複数箇所に出ることも
4. 全身性脱毛
広範囲~全身に脱毛が起こります。
主な原因:
重度の内分泌疾患
栄養不良
薬剤の副作用
脱毛の原因10パターン
犬の脱毛を引き起こす主な10の原因を詳しく解説します。
パターン1: ノミアレルギー性皮膚炎
原因: ノミの唾液に対するアレルギー反応
脱毛の特徴:
好発部位: 腰、尾の付け根、後肢、下腹部
パターン: 非対称性
痒み: 非常に強い
その他の症状:
激しく掻く、噛む
皮膚の赤み、炎症
膿皮症の併発
診断:
ノミの目視確認
ノミ糞の検出
治療:
ノミ駆除薬(月1回投与)
ステロイド、抗ヒスタミン剤(痒み止め)
薬用シャンプー🛒
予防:
年間を通じたノミ予防薬の投与
パターン2: アトピー性皮膚炎
原因: 環境アレルゲン(花粉、ハウスダスト、カビなど)に対するアレルギー
脱毛の特徴:
好発部位: 顔、耳、足先、腋窩、股、腹部
パターン: 非対称性
痒み: 非常に強い
その他の症状:
顔をこする
足先を舐める
外耳炎の併発
季節性の悪化(春、秋に多い)
診断:
アレルギー検査(血液検査、皮内テスト)
除外診断
治療:
アレルゲン回避
薬物療法(オクラシチニブ、シクロスポリン)
減感作療法
薬用シャンプー
予防:
環境の清潔維持
空気清浄機の使用
パターン3: 食物アレルギー
原因: 特定の食物タンパク質に対するアレルギー
脱毛の特徴:
好発部位: 顔、耳、足先、肛門周囲
パターン: 非対称性
痒み: 強い
その他の症状:
慢性的な外耳炎
下痢、嘔吐などの消化器症状
季節性がない(年中発症)
診断:
除去食試験(8~12週間)
負荷試験
治療:
除去食の継続
加水分解タンパク質フード
新奇タンパク質フード
予防:
アレルゲンとなる食材の除去
パターン4: 皮膚糸状菌症(リングワーム)
原因: 真菌(カビ)の感染
脱毛の特徴:
好発部位: 顔、耳、前肢
パターン: 円形脱毛、境界明瞭
痒み: 軽度
その他の症状:
円形の赤い輪っか(リング状)
フケ、かさぶた
人に感染する(人獣共通感染症)
診断:
ウッド灯検査
真菌培養検査
治療:
抗真菌薬(イトラコナゾール)内服
外用抗真菌薬
薬用シャンプー🛒
環境消毒
予防:
感染動物との接触回避
環境の清潔維持
パターン5: 毛包虫症(ニキビダニ)
原因: ニキビダニ(Demodex canis)の異常増殖
脱毛の特徴:
好発部位: 顔(目の周り、口周り)、前肢、胴体
パターン: 円形脱毛、局所型または全身型
痒み: 軽度~中程度
その他の症状:
脱毛部の赤み
フケ
二次的な細菌感染(膿皮症)
診断:
皮膚掻爬検査(顕微鏡でダニを確認)
治療:
イソオキサゾリン系薬剤(ネクスガード、ブラベクトなど)
抗生物質(細菌感染併発時)
予防:
免疫力の維持
パターン6: 疥癬(ヒゼンダニ)
原因: ヒゼンダニの寄生
脱毛の特徴:
好発部位: 耳の縁、肘、かかと、顔
パターン: 非対称性、初期は局所的
痒み: 非常に強い(我慢できないほど)
その他の症状:
夜も眠れないほどの激しい痒み
後ろ足で激しく掻く
かさぶた、痂皮の形成
人に感染する(一時的)
診断:
皮膚掻爬検査(検出率20~50%と低い)
臨床症状から治療的診断
治療:
イソオキサゾリン系薬剤
イベルメクチン(コリー系犬種には禁忌)
環境消毒
予防:
感染犬との接触回避
パターン7: 甲状腺機能低下症
原因: 甲状腺ホルモンの分泌不足
脱毛の特徴:
好発部位: 胴体、尾、後肢(頭部と四肢末端は保たれる)
パターン: 左右対称性
痒み: なし(二次感染がなければ)
その他の症状:
被毛の乾燥、パサつき
皮膚の肥厚、色素沈着
元気消失、活動性低下
体重増加
寒がる
徐脈
診断:
血液検査(T4、TSH測定)
治療:
甲状腺ホルモンの補充療法(生涯継続)
予防:
なし(遺伝的要因が大きい)
好発犬種: ゴールデン・レトリバー、ラブラドール🛒、ダックスフンド、ビーグル、シェルティ
パターン8: クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
原因: 副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の過剰分泌
脱毛の特徴:
好発部位: 胴体(頭部と四肢は保たれる)
パターン: 左右対称性、広範囲
痒み: なし(二次感染がなければ)
その他の症状:
診断:
血液検査(ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験)
超音波検査
治療:
内科療法(トリロスタン)
外科療法(副腎腫瘍の場合)
予防:
なし
好発犬種: プードル、ダックスフンド、ビーグル、ボストン・テリア、ヨークシャー・テリア
パターン9: 膿皮症
原因: 細菌(主にブドウ球菌)の皮膚感染
脱毛の特徴:
好発部位: 全身どこでも
パターン: 非対称性、円形~不規則
痒み: 中程度
その他の症状:
膿疱(膿の入った水ぶくれ)
かさぶた、痂皮
表皮小環(円形のかさぶた)
悪臭
診断:
細菌培養検査
顕微鏡検査
治療:
抗生物質(3~6週間)
薬用シャンプー🛒
基礎疾患の治療(アレルギー、内分泌疾患など)
予防:
皮膚の清潔維持
基礎疾患の管理
パターン10: マラセチア皮膚炎
原因: マラセチア(酵母菌)の異常増殖
脱毛の特徴:
好発部位: 耳、顔、首、脇の下、股、足先
パターン: 非対称性
痒み: 強い
その他の症状:
皮膚のベタつき
特有の酵母臭(甘酸っぱい、カビ臭い)
皮膚の赤み
外耳炎の併発
診断:
セロハンテープ法(顕微鏡でマラセチアを確認)
治療:
抗真菌シャンプー(ミコナゾール+クロルヘキシジン)
抗真菌薬内服(イトラコナゾール)
基礎疾患の治療
予防:
皮膚の清潔維持
アレルギー管理
脱毛の原因別比較表
主な脱毛の原因を、特徴で比較してみましょう。
| 原因 | 脱毛パターン | 好発部位 | 痒み | 人への感染 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|---|---|---|
| ノミアレルギー | 非対称性 | 腰、尾の付け根 | 非常に強い | なし | 激しく掻く、噛む |
| アトピー | 非対称性 | 顔、耳、足先 | 非常に強い | なし | 顔をこする、足を舐める |
| 食物アレルギー | 非対称性 | 顔、耳、足先 | 強い | なし | 外耳炎、消化器症状 |
| 皮膚糸状菌症 | 円形 | 顔、耳、前肢 | 軽度 | あり | 円形のリング、フケ |
| 毛包虫症 | 円形 | 顔、前肢 | 軽度~中程度 | なし | 目の周り、口周りの脱毛 |
| 疥癬 | 非対称性 | 耳の縁、肘、かかと | 非常に強い | あり(一時的) | 我慢できない痒み |
| 甲状腺機能低下症 | 左右対称性 | 胴体、尾 | なし | なし | 元気消失、体重増加、寒がる |
| クッシング症候群 | 左右対称性 | 胴体 | なし | なし | 太鼓腹、多飲多尿、皮膚が薄い |
| 膿皮症 | 非対称性 | 全身 | 中程度 | なし | 膿疱、かさぶた、悪臭 |
| マラセチア | 非対称性 | 耳、脇、股、足先 | 強い | なし | ベタつき、酵母臭、外耳炎 |
診断のアプローチ
脱毛の原因を特定するため、獣医師は以下の手順で診断します(参考:脱毛の診断)。脱毛を伴う皮膚炎にはアレルギー🛒やホルモン異常など多様な原因があります(参考:脱毛を伴う皮膚炎)。
1. 問診
発症時期と経過
脱毛のパターン
痒みの有無と程度
季節性の有無
生活環境
他の症状(多飲多尿、体重変化、元気消失など)
2. 身体検査
脱毛の範囲、パターン、対称性の確認
皮膚の観察(赤み、フケ、かさぶた、色素沈着など)
全身状態の評価
3. 皮膚検査
皮膚掻爬検査:
ニキビダニ、ヒゼンダニの検出
被毛検査:
皮膚糸状菌症の診断
セロハンテープ法:
マラセチアの検出
皮膚生検:
確定診断が困難な場合
4. 真菌培養検査
皮膚糸状菌症の確定診断
5. 血液検査
一般血液検査:
全身状態の評価
ホルモン検査:
T4、TSH(甲状腺機能低下症)
ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験(クッシング症候群)
6. アレルギー検査
アレルゲン特異的IgE検査
皮内テスト
除去食試験
7. 超音波検査
副腎の評価(クッシング症候群)
受診のタイミング
以下の症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
緊急度:高
広範囲の脱毛(体表面積の50%以上)
激しい痒みで夜も眠れない
皮膚からの出血、滲出液
全身症状(発熱、元気消失、食欲不振)
早めの受診が推奨
円形の脱毛が複数箇所にある
脱毛が徐々に拡大している
左右対称の脱毛
痒みを伴う脱毛
皮膚の赤み、フケ、かさぶたを伴う
経過観察可(ただし注意深く観察)
換毛期の自然な抜け毛
小さな局所的脱毛(直径1cm以下)で、拡大傾向がない
脱毛の予防と日常ケア
脱毛を予防し、早期発見するための日常ケアです。
基本的なケア
1. 定期的なブラッシング
毎日~週2回
被毛タイプに合ったブラシを使用
皮膚の観察も同時に
2. 適切なシャンプー
月1~2回
犬用シャンプー🛒を使用
完全に乾かす
3. バランスの良い[栄養](/articles/dog-nutrition-balanced-diet-healthy-skin-coat)
高品質なドッグフード
オメガ3脂肪酸(魚油)の補給
ビタミンE、亜鉛
4. ノミ・ダニ予防
月1回の予防薬投与
年間を通じて継続
5. ストレス管理
適度な運動
十分な休息
安心できる環境
早期発見のポイント
週1回のホームチェック:
全身の被毛の状態確認
皮膚の赤み、フケ、かさぶた
特定部位を執拗に掻く、舐める行動
体重の変化
記録の重要性:
脱毛の写真を撮る(日付入り)
範囲の変化を記録
獣医師への説明に役立つ
好発犬種の注意
特定の犬種は、特定の脱毛疾患にかかりやすい傾向があります。
甲状腺機能低下症:
ゴールデン・レトリバー、ラブラドール、ダックスフンド
クッシング症候群:
プードル、ダックスフンド
アトピー性皮膚炎:
柴犬、シー・ズー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、フレンチ・ブルドッグ
これらの犬種を飼育している場合、より注意深い観察が必要です。
よくある質問
Q: 換毛期の抜け毛と病的な脱毛の見分け方は? A: 換毛期は全身の被毛が均等に抜け、皮膚に異常がなく、新しい毛が生えてきます。病的な脱毛は、部分的または左右対称で、皮膚に赤みやフケなどの異常があり、毛が再生しにくいです。痒みを伴う場合も病的な脱毛を疑います。
Q: 脱毛が対称的な場合、どんな病気が考えられますか? A: 左右対称性の脱毛は、ホルモン異常を強く疑います。特に甲状腺機能低下症とクッシング症候群が代表的です。これらは痒みを伴わないことが特徴です。対称性脱毛が見られたら、血液検査でホルモン値を測定する必要があります。
Q: 脱毛と同時に痒がっている場合、何が原因ですか? A: 痒みを伴う脱毛は、アレルギー(ノミアレルギー、アトピー、食物アレルギー)、感染症(膿皮症、マラセチア皮膚炎、疥癬)が主な原因です。痒みの程度、脱毛の部位から原因を絞り込みます。
Q: 円形の脱毛ができました。人にうつりますか? A: 円形脱毛の原因が皮膚糸状菌症(リングワーム)の場合、人にも感染します。疥癬も人に一時的に感染します。円形脱毛が見られたら、すぐに動物病院を受診し、家族への感染予防策を講じてください。
Q: 老犬で脱毛が増えました。加齢のせいですか? A: 加齢に伴い被毛が薄くなることはありますが、明らかな脱毛は病気のサインです。高齢犬では甲状腺機能低下症、クッシング症候群などのホルモン異常が多く見られます。また、腫瘍や栄養不良の可能性もあります。必ず受診してください。
Q: 脱毛の治療費はどれくらいかかりますか? A: 原因によって大きく異なります。アレルギー性疾患は月5千〜2万円程度の継続治療、ホルモン異常は初期検査に2〜5万円、その後の生涯治療に月5千〜1.5万円程度かかります。感染症は1〜3万円程度で治癒することが多いです。
まとめ
犬の脱毛は、換毛期の自然な抜け毛とは異なり、様々な皮膚疾患や全身性の病気によって引き起こされます。脱毛のパターン(対称性、非対称性、円形など)、好発部位、痒みの有無から、ある程度原因を推測できます。
脱毛の原因10パターンの重要ポイント:
アレルギー性: ノミアレルギー、アトピー、食物アレルギー(非対称性、強い痒み)
感染症: 皮膚糸状菌症、毛包虫症、疥癬、膿皮症、マラセチア(円形または非対称性、痒みは様々)
ホルモン異常: 甲状腺機能低下症、クッシング症候群(左右対称性、痒みなし)
診断: 脱毛パターン、皮膚検査、血液検査で原因を特定
治療: 原因に応じた適切な治療(抗生物質、抗真菌薬、ホルモン補充療法、アレルギー管理など)
予防: 定期的なブラッシング🛒、ノミ予防、バランスの良い栄養、ストレス管理
換毛期以外で異常な脱毛が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。脱毛のパターンと全身症状を獣医師に詳しく伝えることが、正確な診断につながります。また、日頃から愛犬の被毛と皮膚を観察し、異常を早期に発見することが重要です。






