愛犬が急に元気をなくし、目やにや鼻水が増えてきた——そんな症状を「ただの風邪」と思っていませんか?もしかすると、それは致死率50〜90%という恐ろしい感染症「犬ジステンパー」の初期症状かもしれません。
この記事では、ジステンパーの初期症状から診断方法、治療の現実、そして最も効果的な予防法まで、飼い主として知っておくべき情報を詳しく解説します。早期発見と適切な予防が、愛犬の命を守る鍵となります。
犬のジステンパーとは?知っておくべき基礎知識
犬ジステンパーウイルス感染症は、パラミクソウイルス科に属する犬ジステンパーウイルス(CDV:Canine Distemper Virus)によって引き起こされる、非常に感染力の強い全身性疾患です。日本臨床獣医学フォーラムによると、このウイルスは人間の麻疹(はしか)ウイルスと近縁関係にあります。

ジステンパーウイルスは犬の体内に侵入すると、呼吸器系、消化器系、そして神経系を次々と攻撃していきます。特に怖いのは、ワクチン未接種の若い犬における致死率が90%を超えるという点です。また、回復したとしても神経症状などの後遺症が残ることが多く、完全な回復は難しい病気とされています。
犬だけでなく、フェレット🛒、アライグマ、スカンク、キツネなどの野生動物もこのウイルスに感染するため、野外で感染動物と接触するリスクも考慮する必要があります。愛犬の健康を守るためには、病気予防と早期発見の基本を押さえておくことが大切です。
見逃しやすい初期症状:風邪と間違える危険性
ジステンパーの初期症状は、一般的な風邪やケンネルコフと非常によく似ているため、見逃されやすいという特徴があります。みんなのどうぶつ病気大百科では、初期症状として以下のような症状が挙げられています。

初期に見られる主な症状:
発熱:40℃前後の高熱が出ることがありますが、一時的に平熱に戻ることも
元気消失:いつもより動きが鈍く、遊びたがらない
食欲不振:ごはんを残す、好きなおやつ🛒にも興味を示さない
目やに:黄色や緑色の粘り気のある目やにが増える
鼻水:最初は透明でも、次第に黄色く濁ってくる
咳・くしゃみ:乾いた咳や頻繁なくしゃみ
これらの症状だけでは、風邪やケンネルコフとの区別が難しいのが現実です。特に子犬の場合、ペットショップやブリーダーから迎えたばかりの時期に発症することが多く、「環境の変化によるストレス」と誤解されることもあります。
二峰性発熱:ジステンパー特有のパターン
ジステンパーには「二峰性発熱」という特徴的な発熱パターンがあります。感染後数日から1週間ほどで最初の発熱が起こりますが、この時点では症状が乏しく、飼い主が気づかないことが多いです。
その後、一度熱が下がって平熱に戻りますが、数日後に再び発熱します。この2回目の発熱時に、目やにや鼻水、咳などの症状が顕著になってきます。つまり、「熱が下がったから大丈夫」と安心していると、実はジステンパーが進行しているという可能性があるのです。
愛犬の体温が一度上がって下がった後も、注意深く様子を観察することが重要です。少しでも異変を感じたら、すぐに動物病院を受診してください。
症状の進行:急性期から神経症状まで
American Kennel Clubによると、ジステンパーの潜伏期間は1〜4週間と幅があり、感染しても症状が現れるまでに時間がかかることがあります。症状の進行は個体によって異なりますが、一般的には以下のような経過をたどります。
急性期の症状
感染後1〜2週間で急性期に入ると、以下のような症状が現れます:
呼吸器症状の悪化:黄色い鼻水が増え、咳が頻繁になる。重症化すると肺炎を起こすことも
消化器症状:嘔吐や下痢が始まり、脱水症状を引き起こす
目の症状:結膜炎を起こし、目やに🛒がさらに増加。目が充血する
ハードパッド:鼻や肉球の皮膚が硬く厚くなる(これはジステンパーの典型的な症状)
血液検査では、白血球やリンパ球の数が減少していることが多く見られます。これは免疫システムがウイルスと戦っているためです。
神経症状が現れたら
ジステンパーが最も恐れられる理由の一つが、神経症状です。ウイルスが脳や脊髄などの中枢神経系に侵入すると、以下のような深刻な症状が現れます:
けいれん発作:全身性または部分的なけいれんが起こる
震え・チック:特定の筋肉が不随意に動く
麻痺:足が動かなくなったり、立てなくなったりする
歩行異常:ふらつき、円を描くように歩く
頭の傾き:首が一方に傾いたまま戻らない
特に注意が必要なのは、これらの神経症状が呼吸器や消化器の症状が落ち着いてから数週間〜数ヶ月後に突然現れることがあるという点です。「治った」と思っていても、油断は禁物です。
神経症状が出てしまった段階では、残念ながら死亡率が非常に高くなります。また、回復したとしてもけいれんなどの後遺症が生涯残ることが多いです。
感染経路と高リスクな犬
American Veterinary Medical Association(AVMA)の情報によると、ジステンパーウイルスは以下の経路で感染します:
主な感染経路:
接触感染:感染した犬の鼻水、唾液、尿、便に触れることで感染
飛沫感染:感染した犬の咳やくしゃみによって空中に放出されたウイルスを吸い込む
母子感染:感染した母犬から胎盤を通じて子犬に感染することも
ウイルスは環境中では比較的弱く、乾燥や一般的な消毒剤で不活化されますが、感染力自体は非常に強いです。
高リスクなのは以下のような犬です:
生後4ヶ月未満の子犬:母親からの移行抗体が減少し、自身の免疫がまだ十分でない時期
ワクチン未接種の犬:年齢を問わず、ワクチンを打っていない犬は感染リスクが高い
免疫力が低下している犬:病気、ストレス、栄養不良などで免疫機能が弱っている犬
野生動物と接触する機会がある犬:山や森でのハイキング🛒など、野生動物との接触リスクがある環境
多頭飼育の環境や、ドッグランなど犬が多く集まる場所も感染リスクが高いため、ワクチン接種が完了するまでは注意が必要です。
診断方法:獣医師はどう判断するか
Merck Veterinary Manualによると、ジステンパーの診断は以下のステップで行われます。定期的な犬の健康診断と検査を受けていれば、異常の早期発見につながります。
1. 臨床症状と病歴の確認
まず獣医師は、犬の症状、ワクチン接種歴、他の犬との接触歴などを詳しく聞き取ります。特に子犬や若い犬で、呼吸器症状と消化器症状が同時に見られる場合、ジステンパーの可能性を疑います。
2. 血液検査
白血球数の減少:特にリンパ球の減少が特徴的
血小板の減少:出血傾向が見られることも
ただし、二次感染がある場合は白血球が増加していることもあります
3. PCR検査
最も確実な診断方法です。血液、尿、目や鼻からの分泌物などからウイルスの遺伝子を検出します。
4. 抗体検査
血液中のジステンパーウイルスに対する抗体を測定します。ただし、ワクチン接種後にも抗体は上昇するため、解釈には注意が必要です。
5. 画像検査
胸部レントゲン:肺炎の有無を確認
MRI検査:神経症状がある場合、脳の炎症や異常を確認するために実施されることがあります
早期診断ができれば、それだけ早く治療を開始でき、回復の可能性も高まります。愛犬に異変を感じたら、躊躇せず動物病院を受診してください。
治療の現実:特効薬がない中での対処
ここが飼い主にとって最も辛い現実かもしれません。VCA Animal Hospitalsの解説によると、ジステンパーウイルスに直接効く特効薬は現時点で存在しません。つまり、ウイルスそのものを殺す治療はできないのです。
そのため、治療は「支持療法」と「対症療法」が中心となります:
支持療法:
点滴:脱水症状を改善し、体の状態を安定させる
栄養管理:食欲がない場合は強制給餌や経管栄養
酸素療法:肺炎で呼吸が困難な場合に実施
対症療法:
抗生剤:ウイルスには効きませんが、二次的な細菌感染を防ぐため
吐き気止め・下痢止め:消化器症状の緩和
抗けいれん薬:神経症状によるけいれんを抑える
気管支拡張剤・去痰剤:呼吸を楽にする
入院治療と自宅ケア
症状が重い場合は、入院治療が必要になります。特に以下のような状況では入院が推奨されます:
重度の脱水症状がある
肺炎を起こしている
けいれんなどの神経症状がある
自力で食事や水を摂取できない
入院中は他の犬への感染を防ぐため、隔離された環境で治療が行われます。
軽症で自宅ケアが可能な場合でも、以下の点に注意が必要です:
他のペットとの接触を避け、隔離する
使用した食器🛒や寝具は消毒する
定期的に動物病院で経過をチェックする
十分な栄養と水分を摂取できるよう管理する
治療には数週間から数ヶ月かかることもあり、飼い主の根気強いケアが求められます。
予後と回復後の生活
PS保険のペット保険情報によると、ジステンパーに感染した犬の約50%が命を落とすという厳しい現実があります。特に以下のような場合、予後は不良です:
神経症状が出ている場合:死亡率がさらに高くなる
ワクチン未接種の子犬:致死率90%以上
免疫力が低下している犬:回復が困難
ただし、希望がないわけではありません。早期発見・早期治療を行い、犬自身の免疫力が十分であれば、回復できるケースもあります。
回復後の注意点:
後遺症の可能性:けいれん、震え、視力障害などの神経症状が残ることがある
生涯免疫の獲得:回復した犬は、ジステンパーウイルスに対する生涯免疫を獲得
ウイルス排出期間:回復後も数週間はウイルスを排出する可能性があるため、他の犬との接触は控える
定期的な健康チェック🛒:後遺症の管理や再発の有無を確認するため、定期的な受診を
回復した犬でも、高齢になってから突然神経症状が現れる「老犬脳炎」を発症することがあります。生涯にわたる健康管理が重要です。
ワクチンによる予防:最も確実な防御
ジステンパーに対する最も効果的な予防法は、ワクチン接種です。ジステンパーワクチンは、すべての犬に接種が推奨される「コアワクチン」に分類されており、混合ワクチンの種類の中に必ず含まれています。
子犬のワクチン接種スケジュール:
子犬は生まれてすぐ、母犬の初乳から「移行抗体」を受け取ります。この抗体は子犬を感染症から守ってくれますが、生後6〜12週頃に徐々に減少していきます。
しかし、移行抗体が残っている間はワクチンの効果が十分に発揮されないという問題があります。移行抗体が消失する時期には個体差があるため、以下のような複数回接種が推奨されています:
1回目:生後6〜8週齢
2回目:生後10〜12週齢
3回目:生後14〜16週齢
最後の接種から約1週間後に十分な免疫が確立されます。それまでは、他の犬との接触を控えめにすることが安全です。
成犬の追加接種:
子犬期のワクチン接種が完了した後は、1年後に追加接種(ブースター)を行います。その後は、世界的なガイドラインでは3年ごとの接種が推奨されています。ただし、日本で使用されている混合ワクチンの多くはコアワクチンとノンコアワクチンが一緒になっているため、動物病院🛒によっては毎年の接種を勧められることもあります。
ワクチンはパルボウイルスなど他の致命的な感染症も同時に予防できるため、必ず接種しましょう。
まとめ:早期発見と予防が愛犬の命を守る
ジステンパーは、致死率が50〜90%という非常に恐ろしい感染症です。特効薬がなく、一度発症すると回復は困難で、たとえ助かっても後遺症が残ることが多い病気です。
しかし、この病気は予防可能です。そして、早期発見できれば回復の可能性も高まります。
飼い主として心がけるべきこと:
初期症状を見逃さない:元気がない、目やに・鼻水が増えた、食欲がないなどの症状が続いたら、すぐに動物病院へ
二峰性発熱に注意:熱が一度下がっても油断せず、再発熱がないか観察する
ワクチン接種を確実に:子犬期の複数回接種と、成犬になってからの追加接種を忘れずに
感染リスクを避ける:ワクチン接種が完了するまで、他の犬との接触を控える
定期健診を受ける:早期発見・早期治療のために、定期的な健康診断を
愛犬の健康を守るためには、病気予防と早期発見が何より大切です。ワクチン接種という「予防」と、日頃からの「観察」。この2つを怠らなければ、ジステンパーから愛犬を守ることができます。
少しでも「おかしいな」と感じたら、迷わず獣医師に相談してください。愛犬の命を守れるのは、飼い主であるあなただけなのです。






