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犬の繁殖と避妊・去勢:正しい知識と選択

子宮蓄膿症:命に関わる緊急疾患

子宮蓄膿症:命に関わる緊急疾患の画像

子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)は、未避妊のメス犬に発生する重篤な生殖器疾患です。適切な治療を受けなければ命を落とす可能性が高く、早期発見と迅速な対応が不可欠な緊急疾患です。

子宮蓄膿症とは

子宮蓄膿症(パイオメトラ)は、子宮内に膿が貯留する疾患で、中高齢の未避妊メス犬に多く見られます。発情後1~2ヶ月の黄体期に細菌感染が起こり、子宮内で膿が産生されます。

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好発条件:

  • 6歳以上の未避妊メス犬

  • 出産経験がない犬

  • 最後の出産から年数が経っている犬

  • 発情を繰り返し🛒ている犬

発症のメカニズム:

ステージ体内の変化リスク
発情期子宮頸管が開く細菌侵入の機会
黄体期プロゲステロン分泌増加子宮内膜肥厚、免疫力低下
感染大腸菌などが増殖膿の産生開始
蓄積子宮内に膿が貯留全身状態悪化
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大腸菌などの腸内細菌が膣から子宮内に侵入し、ホルモンの影響で免疫機能が低下した子宮内で急速に増殖します。

詳しくは犬の繁殖と避妊・去勢:正しい知識と選択をご覧ください。

子宮蓄膿症の2つのタイプ

子宮蓄膿症には開放性閉塞性の2つのタイプがあり、症状の現れ方や重症度が異なります。

開放性子宮蓄膿症(Open Pyometra)

子宮頸管が開いており、膿が外陰部から排出されるタイプです。

発生率:全症例の約65%

主な症状:

  • 外陰部からの膿性分泌物(悪臭を伴う)

  • 陰部周辺の汚れ

  • 多飲多尿

  • 元気・食欲の低下

  • 嘔吐

特徴:

  • 膿が体外に排出されるため、飼い主🛒が異常に気づきやすい

  • 症状は比較的緩やかに進行

  • 膿が排出される分、子宮内の圧力上昇は少ない

  • しかし、1ヶ月以上放置すると重篤化

閉塞性子宮蓄膿症(Closed Pyometra)

子宮頸管が閉じており、膿が子宮内に閉じ込められるタイプです。

発生率:全症例の約35%

主な症状:

  • 外陰部からの分泌物なし(または極少量)

  • 腹部の膨満(お腹が張る)

  • 急激な全身状態の悪化

  • 元気消失、虚脱

  • 激しい嘔吐

特徴:

  • 外見的な変化が少なく、発見が遅れやすい

  • 膿が急速に貯留し、1週間で致命的になることも

  • 子宮破裂のリスクが非常に高い

  • より緊急性が高く、危険

比較項目開放性閉塞性
発生率65%35%
外陰部分泌物あり(多量)なし~少量
発見のしやすさ比較的容易困難
進行速度緩徐(数週間)急速(数日~1週間)
子宮破裂リスク低~中
緊急度極めて高

主な症状と進行

子宮蓄膿症の症状は段階的に進行し、早期発見が予後を左右します。

初期症状(発症後1~3日)

  • 軽度の元気低下

  • 食欲の減少

  • 水を多く飲む(多飲)

  • 尿量の増加(多尿)

  • 軽い発熱

この段階で気づくポイント:

  • 発情終了後1~2ヶ月経過している

  • いつもより水をよく飲む

  • 外陰部に異常な分泌物がある(開放性の場合)

中期症状(発症後4~7日)

  • 明らかな元気消失

  • 食欲廃絶(全く食べない)

  • 嘔吐の出現

  • 腹部の膨満(閉塞性)

  • 発熱(39.5℃以上)

末期症状(発症後1週間以上)

末期症状に至ると生命の危機に直面します。

危険な兆候:

  • ぐったりして動けない(虚脱状態)

  • 粘膜の蒼白(貧血)

  • 呼吸困難

  • 低体温(36℃以下)

  • 意識レベルの低下

  • けいれん

合併症の発生:

合併症発生メカニズム症状
敗血症細菌が血液中に侵入発熱、ショック
エンドトキシン血症細菌毒素が全身に血圧低下、臓器不全
急性腎不全脱水、毒素による腎障害尿量減少、浮腫
DIC(播種性血管内凝固)全身の凝固異常出血傾向、血栓
腹膜炎子宮破裂により激痛、ショック
多臓器不全複数臓器の機能停止意識障害、呼吸不全

これらの合併症が発生すると、適切な治療を行っても致死率は4~20%に達します。

診断方法

子宮蓄膿症の診断には複数の検査を組み合わせ🛒ます。

問診と身体検査

獣医師は以下を確認します:

  • 発情周期の履歴(最後の発情はいつか)

  • 飲水量・尿量の変化

  • 外陰部の状態

  • 腹部触診(子宮の腫大)

血液検査

検査項目典型的な所見意味
白血球数著明な増加(20,000以上)重度の細菌感染
好中球左方移動急性感染症
BUN・Cr上昇腎機能障害
肝酵素上昇肝機能への影響
電解質異常脱水、代謝異常

画像診断

腹部レントゲン検査:

  • 子宮の拡大・腫大

  • 腹水の有無

腹部エコー検査:

  • 子宮内の液体貯留を確認

  • 子宮壁の肥厚

  • 膿の性状の評価

  • より正確な診断が可能

治療法

子宮蓄膿症の治療は緊急を要するため、診断後は即座に入院し、治療が開始されます。

外科治療(推奨)

子宮卵巣摘出術が第一選択の治療法です。

手術の内容:

  1. 全身麻酔

  2. 開腹

  3. 膿が貯留した子宮と卵巣を完全に摘出

  4. 腹腔内の洗浄(必要に応じて)

  5. 閉腹

手術のメリット:

  • 感染源を完全に除去

  • 再発リスクゼロ

  • 根治的治療

  • 生存率が最も高い

手術のリスク:

  • 全身麻酔のリスク(特に高齢犬🛒

  • 手術自体のリスク

  • 術後の合併症

手術後の死亡率:5~8%

早期に手術を行えば、予後は良好です。しかし、状態が悪化してからの手術では死亡率が上昇します。

内科治療(限定的)

以下の条件を満たす場合のみ選択肢となります:

適応条件:

  • 開放性子宮蓄膿症

  • 全身状態が比較的良好

  • 繁殖価値が高い犬

  • 飼い主が将来の手術を承諾

治療内容:

  • 抗生物質の長期投与

  • プロスタグランジン製剤(子宮収縮を促す)

  • 点滴による支持療法

内科治療のデメリット:

  • 再発率が非常に高い(50~70%)

  • 完治しない

  • 長期間の治療が必要

  • 費用が高額になることも

重要:内科治療は一時的な改善に過ぎず、最終的には手術が必要になることがほとんどです。

術前安定化処置

状態が悪い犬では、手術前に状態を安定させる処置を行います。

処置目的内容
輸液療法脱水補正、循環改善静脈点滴
抗生物質感染のコントロール広域抗生剤
鎮痛剤痛みの緩和NSAIDs、オピオイド
制吐剤嘔吐の抑制制吐薬
酸素吸入呼吸状態改善酸素テント

状態が安定したら可能な限り早く手術を実施します。

予後と生存率

子宮蓄膿症の予後は、発見の早さと治療開始のタイミングに大きく左右されます。

早期発見・早期治療の場合

条件生存率予後
初期症状で発見95%以上良好
全身状態良好92~95%良好
合併症なし95%以上極めて良好

進行例・合併症ありの場合

条件生存率予後
閉塞性・重症80~96%慎重
敗血症併発80~96%不良~慎重
DIC併発50~80%不良
多臓器不全30~60%極めて不良

術後の注意点:

  • 最初の24~48時間が最も重要

  • 感染症のリスク

  • 腎機能の回復に時間がかかることも

  • 定期的な血液検査が必要

手術費用

子宮蓄膿症の手術費用は、犬のサイズや病院によって異なります。

項目費用目安
術前検査(血液検査、エコーなど)10,000~20,000円
子宮卵巣摘出術50,000~150,000円
入院費(3~7日)30,000~70,000円
薬剤・点滴20,000~50,000円
合計100,000~300,000円

費用が高額になる要因:

  • 緊急手術(夜間・休日)

  • 大型犬

  • 重症例(集中治療が必要)

  • 合併症の治療

  • 長期入院

ペット保険に加入している場合、保険の適用を受けられることがあります。

予防方法

子宮蓄膿症の最善かつ唯一の確実な予防策は避妊手術です。

避妊手術による予防

子宮と卵巣を摘出することで、子宮蓄膿症の発生リスクを100%予防できます。

推奨される避妊手術のタイミング:

  • 初回発情前(生後6~10ヶ月)が最適

  • 発情後1~2ヶ月は避ける(子宮が充血している時期)

  • 中高齢でも実施可能(健康状態が良ければ)

詳しくは避妊・去勢手術の最適な時期とタイミングをご覧ください。

未避妊犬の健康管理

避妊手術を行わない場合は、以下のモニタリングが重要です。

年齢推奨される管理頻度
5歳未満定期健康診断年1回
5~7歳健康診断、エコー検査年2回
8歳以上健康診断、エコー検査、血液検査年2~3回

日常の観察ポイント:

  • 発情周期の記録(最後の発情日を記録)

  • 飲水量の変化

  • 尿量の変化

  • 外陰部の異常分泌物

  • 元気・食欲の変化

発情後1~2ヶ月は特に注意が必要な時期です。

飼い主が知っておくべきこと

こんな症状があったらすぐ受診

以下の症状が見られたら、直ちに動物病院🛒を受診してください:

緊急を要する症状:

  • 外陰部からの膿性分泌物

  • 異常な多飲多尿

  • 急激な元気消失

  • 嘔吐が続く

  • お腹が急に膨れる

  • ぐったりして動かない

特に注意すべき時期:

  • 発情終了後1~2ヶ月

  • 6歳以上の未避妊メス犬

夜間・休日でも受診すべき理由

子宮蓄膿症は時間との勝負です。

時間経過と悪化:

  • 12時間:症状が急速に進行

  • 24時間:全身状態が著しく悪化

  • 48時間:敗血症などの合併症リスク上昇

  • 1週間:致命的になる可能性が高い

「様子を見よう」は命取りになります。疑わしい症状があれば、夜間・休日でも緊急動物病院を受診しましょう。

まとめ:子宮蓄膿症から愛犬を守る

子宮蓄膿症は未避妊のメス犬にとって常にリスクがある重篤な疾患です。

重要ポイント:

  1. 予防が最善:避妊手術により100%予防可能

  2. 早期発見が鍵:発情後1~2ヶ月は特に注意

  3. 緊急対応が必要:疑わしい症状があれば即受診

  4. 手術が基本:子宮卵巣摘出術が最も確実な治療

  5. 時間が予後を左右:早ければ早いほど生存率が高い

未避妊の飼い主🛒さんへ:

もし繁殖の予定がないのであれば、愛犬を子宮蓄膿症のリスクから守るために、早めの避妊手術を検討しましょう。すでに中高齢の場合でも、健康状態が良ければ手術は可能です。

かかりつけの獣医師と相談し、愛犬にとって最善の選択をしてください。

詳しくは犬の繁殖と避妊・去勢:正しい知識と選択をご覧ください。

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