愛犬が擦り傷や切り傷を負った時、「消毒液で殺菌しなければ」と考える🛒飼い主は多いでしょう。しかし、実は現代の獣医療では消毒薬の使用は推奨されていません。消毒薬はバイ菌だけでなく、傷を治すありがたい細胞まで殺してしまいます。本記事では、犬の傷の正しい洗浄方法、なぜ消毒が不要なのか、傷を舐めさせない工夫、そして化膿を防ぐための適切なケアについて、獣医師監修のもと詳しく解説します。
傷の手当ての基本原則
現代の創傷ケアの考え方

湿潤療法(モイストヒーリング) 現代の創傷治療は、「湿潤療法」が主流となっています。これは、傷を適度に湿らせた状態で治癒させる方法で、以下の利点があります:
湿潤療法のメリット
痛みが少ない
治癒が早い(乾燥させるより約2倍速い)
きれいに治る(傷跡が残りにくい)
感染リスクが低い
かさぶたができない
| 従来の方法との違い | 項目 | 従来(乾燥療法) |
|---|---|---|
| 現代(湿潤療法) | 消毒 | 毎日消毒する |
| 消毒しない | 乾燥 | 乾燥させる |
| 適度に湿らせる | ガーゼ | 乾いたガーゼで覆う |
| 湿潤環境を保つ | かさぶた | かさぶたを作る |
| かさぶたを作らない | 治癒期間 | 長い |
| 短い |

なぜ消毒が不要なのか
傷の消毒について、医療界では大きな認識の変化がありました。
消毒の問題点
細胞毒性:消毒薬は細菌だけでなく、傷を治す正常な細胞も殺してしまう
治癒の遅延:細胞が傷つくことで、傷の治りが遅くなる
痛みを伴う:消毒液は傷口に強い刺激を与え、痛みを引き起こす
組織損傷:特に強い消毒液は健康な組織まで損傷する
必要性の低さ:適切な洗浄で十分に細菌数を減らせる
科学的根拠 消毒すると、体を守る菌や傷を治す細胞までも殺してしまい、傷が治りにくく、消毒薬は傷口を刺激し、痛みや傷の治癒を遅らせるという研究結果があります。
正しい傷の洗浄方法
準備するもの
必須アイテム
生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)または水道水
清潔なガーゼまたは布
使い捨て手袋(飼い主の感染予防)
あると便利
シリンジ(注射器):洗浄液を勢いよく出せる
ペット用洗浄液(獣医師処方)
ぬるま湯
ステップ1:傷の状態確認
まず観察すべき点
傷の深さ:表面的か、深いか
出血の有無と量
異物の有無(ガラス片、砂利、植物のトゲなど)
傷の場所と大きさ
犬の痛みの程度
すぐ病院に行くべき傷
深い裂傷(筋肉や脂肪が見える)
大量出血が止まらない
異物が深く刺さっている
噛み傷(感染リスクが高い)
関節部分の傷
目や耳の近くの傷
ステップ2:手の準備
感染予防
飼い主の手を石鹸でよく洗う
使い捨て手袋を装着(できれば)
犬を落ち着かせる
ステップ3:傷の洗浄
犬が切り傷・擦り傷を負ったら、生理食塩水(なければ水道水)で傷口をよく洗います。
洗浄の手順
流水で洗う
- 生理食塩水または流水(ぬるま湯)を使用 - 傷口から10~15cm離して、やさしく流す - 少なくとも1~2分間洗浄 - 汚れや血液、異物を洗い流す
洗浄液の選択
- 第1選択:生理食塩水(刺激が最も少ない) - 第2選択:水道水(清潔で十分) - 第3選択:ぬるま湯(冷たすぎると犬がびっくりする)
洗浄の強さ
- 表面的な擦り傷:やさしく流す程度 - 深い傷:やや勢いをつけて洗浄(シリンジを使うと効果的) - 目安:傷口の奥まで洗浄液が届くように
注意点
水圧が強すぎると痛みを与える
冷たすぎる水は避ける(体温に近いぬるま湯が理想)
洗浄液が目や口に入らないよう注意
ステップ4:水分の拭き取り
正しい拭き方
清潔なガーゼや柔らかい布を使用
押さえるように拭く(こすらない)
傷口の周囲から中心に向かって拭く
ガーゼは1回使ったら交換
ステップ5:傷口の保護(必要に応じて)
基本は開放創 小さな擦り傷や表面的な切り傷は、何も覆わず開放したままが理想です。
覆う必要がある場合
汚れやすい場所の傷(足裏など)
犬が舐めてしまう場所
出血が続いている場合
覆い方
非粘着性のガーゼまたは専用パッド
軽く包帯🛒で固定(きつく巻きすぎない)
1日1~2回交換
ガーゼや絆創膏での保護は傷口を乾燥させ、はがす際に修復中の新しい皮膚まではがれてしまうため、長期使用は避ける
使ってはいけない消毒液と薬
避けるべき消毒液
1. イソジン(ポビドンヨード)
細胞毒性が強い
傷の治癒を遅らせる
犬が舐めると有害
2. オキシドール(過酸化水素水)
正常な細胞を破壊する
泡立つため汚れが取れたように見えるが、実は細胞が壊されている
繰り返し使用すると肉芽形成を妨げる
3. マキロン(塩化ベンザルコニウム)
人間用として販売されているが、犬には不要
4. アルコール🛒(エタノール)
強い痛みを伴う
蒸発が早く、効果が限定的
5. 赤チン(マーキュロクロム)
水銀を含むため、現在は使用されていない
犬には絶対に使用しない
使ってはいけない薬
人間用の外用薬 人間用の消毒薬などは刺激が強いものもありますので、使用せずにそのまま動物病院に連れて行きましょう。
避けるべき薬剤
オロナイン軟膏
キズパワーパッド(犬が食べる危険)
ステロイド軟膏(獣医師の指示なく使用しない)
抗生物質軟膏(獣医師の処方が必要)
理由
犬の皮膚は人間より薄く、吸収率が異なる
舐めることで誤飲の危険
適切な濃度や成分が異なる
副作用のリスク
犬が傷を舐めるのを防ぐ方法
なぜ舐めてはいけないのか
舐めることの問題
治癒の遅延:唾液中の酵素が傷の治癒を妨げる
傷の拡大:舌のザラザラした表面が傷を広げる
慢性化:常に舐めることで、傷が治らない状態が続く
肉芽腫形成:過剰に舐めることで異常な組織が増殖
エリザベスカラー(エリカラ)
エリザベスカラーは手術後の傷口や、痛みとかゆみが発生している皮膚を犬が引っ掻いたり舐めたりしないようにできます。
メリット
確実に傷口を保護できる
視界が広い透明タイプもある
獣医師が推奨する標準的な方法
デメリット
犬にストレスを与える
食事や水飲みが難しい場合がある
家具にぶつかる
寝づらい
使用のコツ
サイズ選び:鼻先が届かない程度の長さ
装着時間:傷が完全に治るまで(通常7~14日)
食事時:皿を高い位置に置く、または一時的に外す(監視下で)
慣らし:最初は短時間から始めて徐々に延長
エリザベスカラーの代替品
1. 術後服・傷保護服 エリザベスウエアなど、傷口を覆う専用の服があります。
メリット
カラーより快適
動きやすい
ストレスが少ない
デメリット
こまめな洗濯が必要
傷の場所によっては使えない
脱げてしまうことがある
2. ドーナツ型カラー(ソフトカラー) 首周りを柔らかいクッション🛒で囲むタイプ。
メリット
寝やすい
食事がしやすい
ぶつかっても痛くない
デメリット
柔軟性があるため、器用な犬は舐められる場合がある
首が短い犬には効果が薄い
3. 苦味スプレー 傷の周囲に苦い味のスプレーを塗布。
メリット
装着物が不要
行動の制限がない
デメリット
効果が薄い犬もいる
傷口に直接塗れない
定期的に塗り直す必要
環境管理と監視
監視の重要性
飼い主の目が届く時間はカラーを外してもよい(獣医師の許可があれば)
舐め始めたらすぐに制止
ご褒美で気をそらす
環境整備
傷が気にならないよう、適度な運動で疲れさせる
おもちゃ🛒で気を紛らわせる
快適な環境で不安を減らす
化膿の予防と早期発見
化膿のサイン
注意すべき症状
傷口の腫れが悪化
赤みが広がる
熱を持っている
膿(黄色や緑色の分泌物)
悪臭
痛みの増加(触ると鳴く)
発熱(38.5℃以上)
食欲不振、元気消失
化膿のメカニズム
細菌が傷口から侵入
免疫細胞が集まって戦う
戦いの残骸が膿となる
炎症反応で腫れ・赤み・熱・痛みが生じる
化膿を防ぐ日常ケア
1日1~2回のチェック
傷口の状態を観察
腫れや赤みの変化
分泌物の有無
犬の様子(痛がる、気にする)
清潔に保つ
1日1~2回、流水で洗浄
汚れたら都度洗う
散歩後は必ず洗浄
泥や砂が付着しないよう注意
栄養と免疫力
バランスの取れた食事
十分な水分補給
ストレス軽減
十分な休息
いつ動物病院を受診すべきか
即座に受診が必要
深い傷(縫合が必要な可能性)
大量出血
異物が刺さっている
噛み傷(特に他の動物から)
顔や目の近くの傷
24時間以内に受診
化膿の兆候
傷が開いてきた
痛みが増している
発熱
数日以内に受診
治りが遅い
かさぶたが何度も取れる
傷口が硬くなってきた
傷の種類別ケア方法
擦り傷(擦過傷)
特徴
表面的な傷
広範囲に渡ることが多い
ジュクジュクした滲出液
ケア方法
流水でしっかり洗浄(砂や小石を完全に除去)
清潔なガーゼで水分を拭き取る
開放創として空気に触れさせる
汚れやすい場所は非粘着性ガーゼで軽く保護
注意点
砂利や砂が残ると化膿しやすい
広範囲の場合は動物病院🛒へ
切り傷(切創)
特徴
鋭利なもので切れた傷
傷の縁がきれい
深さがある場合も
ケア方法
出血が多い場合はまず止血(清潔なガーゼで5~10分圧迫)
流水で洗浄
深い場合は縫合が必要なため、すぐ病院へ
浅い場合は清潔に保ち、経過観察
受診の目安
傷の深さが3mm以上
傷が開いている(ぱっくり)
出血が止まらない
刺し傷(刺創)
特徴
細く深い傷
外見は小さいが内部で広がっていることも
感染リスクが高い
ケア方法
無理に異物を抜かない(深い場合)
流水で洗浄(表面のみ)
必ず動物病院を受診
危険性
見た目以上に深い
内部で出血している可能性
異物が残っている可能性
破傷風などの感染症リスク
噛み傷(咬傷)
特徴
他の動物に噛まれた傷
表面の傷は小さくても内部が損傷
最も感染リスクが高い
ケア方法
すぐに流水で5分以上洗浄
出血が多い場合は止血
必ず動物病院を受診(見た目が軽症でも)
危険性
口腔内細菌が深部まで入り込む
数日後に化膿することが多い
狂犬病などの感染症リスク(野生動物の場合)
傷の経過観察と治癒のサイン
正常な治癒過程
第1段階:炎症期(1~3日)
軽い赤み、腫れ
透明~薄いピンク色の滲出液
痛みは徐々に軽減
第2段階:増殖期(3~14日)
新しい組織(肉芽)が形成される
赤みが引いてくる
傷が小さくなる
薄いピンク色の新しい皮膚
第3段階:成熟期(数週間~数ヶ月)
傷跡が目立たなくなる
毛が生えてくる(完全には戻らないこともある)
皮膚が正常な色に近づく
治癒が順調なサイン
良好な経過
日に日に傷が小さくなる
痛みが軽減
犬が傷を気にしなくなる
赤みや腫れが引く
分泌物が減る
新しい皮膚(ピンク色)が見える
異常なサイン(治癒不良)
心配な症状
傷が広がる
赤みや腫れが悪化
黄色や緑色の膿
悪臭
治癒が停滞(2週間経っても変化なし)
周囲の皮膚が硬くなる
すぐ受診すべき症状
発熱
食欲不振
元気消失
傷から大量の膿
周囲のリンパ節の腫れ
まとめ:正しい知識で適切なケアを
犬の傷のケアにおいて、最も重要なのは「消毒しない、清潔に洗う」という原則です。
この記事の重要ポイント
消毒液は使用しない(細胞も殺してしまう)
生理食塩水または水道水でしっかり洗浄
イソジン、オキシドール、アルコールは避ける
人間用の薬は使わない
傷は適度に湿らせた状態で治す
エリザベスカラーで舐めるのを防ぐ
化膿のサインを見逃さない
深い傷、噛み傷は必ず受診
今日からできること
[ ] 生理食塩水を常備(薬局で購入可能)
[ ] エリザベスカラーを1つ用意
[ ] 清潔なガーゼやタオル🛒を救急キットに入れる
[ ] かかりつけ動物病院の連絡先を確認
[ ] 家族全員で正しいケア方法を共有
従来の「消毒・乾燥・ガーゼ保護」という方法は、現代医療では時代遅れです。正しい知識を持って、愛犬の傷を適切にケアしましょう。
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