朝は何ともなかったのに、夕方には愛犬の体に赤くただれた円形の病変ができている──こんな急激な変化が見られたら、ホットスポット(急性湿疹)の可能性があります。ホットスポットは、数時間から1日という短時間で急速に悪化する皮膚疾患で、特に梅雨から夏にかけて多発します。
この記事では、ホットスポットの症状、急速に悪化するメカニズム、緊急時の対処法、治療法から、再発予防まで、獣医師の視点から詳しく解説します。
ホットスポット(急性湿疹)とは?
ホットスポット(Hot Spot)とは、急性湿性皮膚炎または急性湿疹と呼ばれる、犬に非常に多く見られる皮膚病です。正式な医学用語では「Acute Moist Dermatitis(急性湿性皮膚炎)」または「Pyotraumatic Dermatitis(外傷性膿皮症)」と呼ばれます。

最大の特徴は、その急激な進行速度です。朝には何も異常がなかった皮膚が、数時間後には赤く腫れ、ジュクジュクとした湿潤性の病変に変化します(参考:急性湿疹の概要)。
ホットスポットの特徴
**1🛒. 急速な進行**
数時間~24時間で病変が拡大
朝正常→昼赤く腫れる→夕方ジュクジュク化膿

2. 円形~楕円形の病変
直径3~10cm程度(重症では15cm以上)
境界が比較的明瞭
3. 湿潤性
表面がジュクジュク、ベタベタ
滲出液や膿の付着
悪臭を伴うことも
4. 強い痒み・痛み
犬が執拗に舐める、噛む
触ると嫌がる、痛がる
発症のメカニズム
ホットスポットは、以下の悪循環で急速に悪化します。
何らかの刺激(虫刺され、傷、汚れなど)
痒み・違和感 → 犬が舐める、掻く
皮膚バリアの破壊 → 細菌侵入
細菌の急速な増殖 → 炎症悪化
さらに痒み・痛み増強 → さらに舐める、噛む
病変の拡大
この悪循環が数時間で進行するため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
ホットスポットの症状
ホットスポットの症状は、急激に進行するのが特徴です(参考:急性湿性皮膚炎の症状)。
初期症状(発症0~6時間)
1. 軽度の赤み
小さな円形の赤い斑点
直径1~3cm程度
2. 犬の行動変化
特定の部位を執拗に舐める
その部位を気にして掻く
落ち着きがない
この段階で気づけば、軽症のうちに治療を開始できます。
進行期症状(発症6~24時間)
1. 脱毛
病変部の毛が抜ける、または濡れて固まる
境界が明瞭な円形脱毛
2. 皮膚の変化
鮮やかな赤色に変化
表面がジュクジュク湿潤
滲出液が付着
3. 腫れ
病変部が周囲より盛り上がる
むくんだ感じ
4. 痛み
触ると痛がる
嫌がって逃げる
重症化した症状(24時間以降)
適切な治療がないと、さらに悪化します。
1. 病変の拡大
直径10cm以上に拡大
複数の病変が融合
2. 深部感染
皮膚の深層まで感染
化膿、出血
悪臭(腐敗臭)
3. 全身症状
発熱
元気消失
食欲不振
リンパ節の腫れ
症状が現れやすい部位
好発部位:
頬: 最も多い(約30~40%)
首周り: 首輪🛒の摩擦部位
腰: 尾の付け根、腰部
股: 内股、肛門周囲
四肢: 前足、後足
理由:
犬が舐めやすい部位
湿気がこもりやすい部位
摩擦が起きやすい部位
ホットスポットの原因
ホットスポットを引き起こす原因は多岐にわたります。
直接的な原因(きっかけ)
1. 外部寄生虫
ノミ: 最も一般的な原因
ダニ: マダニ、ツメダニ
蚊: 刺された部位
2. アレルギー
[ノミアレルギー性皮膚炎](/articles/flea-allergy-dermatitis-severe-itching-prevention): ノミ1匹でも強烈な痒み
[アトピー性皮膚炎](/articles/dog-atopic-dermatitis-causes-symptoms-management): 花粉、ハウスダスト
[食物アレルギー](/articles/dog-food-allergy-symptoms-diagnosis-hypoallergenic-diet): 特定食材への反応
3. 外傷
小さな傷、擦り傷
虫刺され
棘が刺さる
4. 耳の問題
外耳炎: 耳の痒み → 掻く → 頬にホットスポット
耳ダニ: 同様のメカニズム
5. 肛門嚢の問題
肛門嚢炎
肛門嚢の鬱滞
6. 関節痛
関節の痛み → その部位を舐める → ホットスポット
7. ストレス・退屈
過度のストレス
運動不足
常同行動(同じ部位を舐め続ける)
環境要因
1. 高温多湿
ホットスポットは梅雨から夏(5月~9月)に多発します。
気温25℃以上、湿度70%以上
被毛の中が蒸れる
細菌が増殖しやすい環境
2. 被毛の状態
長毛、厚い被毛
毛玉
不十分な乾燥(シャンプー🛒後、雨の後)
3. 不衛生
汚れた被毛
泥、草の種子の付着
好発犬種
特定の犬種で発症しやすい傾向があります。
高リスク犬種:
ゴールデン・レトリバー: 最も多い
ラブラドール・レトリバー
シベリアン・ハスキー
秋田犬
柴犬
ニューファンドランド
セント・バーナード
共通点:
密なアンダーコート(下毛)を持つ
水を好む犬種(濡れた被毛が乾きにくい)
好発年齢・季節
年齢: すべての年齢、特に若~中年齢(1~7歳)
季節: 梅雨~夏(5~9月)が80%以上
緊急時の応急処置
ホットスポットを発見したら、すぐに動物病院を受診することが最も重要です。しかし、夜間や休診日など、すぐに受診できない場合の応急処置を説明します。
やるべきこと
1. 患部を舐めさせない
最優先事項です。
エリザベスカラー(エリカラ)の装着
または術後服の着用
患部に包帯を巻く(通気性のあるもの)
重要: 犬が舐め続けると、数時間で急激に悪化します。
2. 患部の冷却
炎症を抑えるため、冷やします。
清潔なタオルを冷水で濡らす
軽く絞って患部に当てる(5~10分)
氷嚢は避ける(冷やしすぎ注意)
3. 患部周辺の毛をカット(可能であれば)
通気性を良くし、薬の浸透を助けます。
電動バリカンまたはハサミ(先が丸いもの)
病変部から2~3cm外側まで短くカット
皮膚を傷つけないよう注意
注意: 嫌がる場合は無理せず、獣医師に任せましょう。
4. 清潔な水で洗浄(軽度の場合)
ぬるま湯で優しく洗い流す
ゴシゴシこすらない
清潔なタオルで優しく押さえて水分を取る
完全に乾かす(ドライヤー🛒の冷風)
やってはいけないこと
1. 人間用の薬を使う
❌ オロナイン、マキロン
❌ ステロイド軟膏
❌ 消毒用アルコール
これらは犬の皮膚には刺激が強く、悪化させることがあります。
2. 患部を強くこする
出血や皮膚損傷を悪化させる
3. 包帯をきつく巻く
血流障害、蒸れの原因
4. 様子見する
ホットスポットは急速に悪化するため、早期受診が不可欠
受診のタイミング
すぐに受診すべきケース:
病変が急速に拡大している
広範囲(直径5cm以上)
深い傷、出血がある
犬が激しく痛がる
発熱、元気消失がある
複数箇所に病変がある
翌日受診でも可(応急処置をした上で):
病変が小さい(直径3cm以下)
進行が止まっている
犬の全身状態は良好
ホットスポットの治療法
ホットスポットの治療は、細菌感染のコントロールと舐めることの防止が中心です(参考:急性湿疹の治療)。
動物病院での治療
1. 被毛のカット(クリッピング)
病変部とその周囲(3~5cm)の毛を短くカットします。
目的:
通気性の改善
薬剤の浸透促進
病変の観察
2. 患部の洗浄・消毒
クロルヘキシジンやポビドンヨードなどの消毒液で洗浄します。
壊死組織、膿、かさぶたの除去
細菌数の減少
3. 抗生物質の投与
細菌感染を治療するため、抗生物質が必要です。
内服薬:
セファレキシン: 第一選択
クラブラン酸アモキシシリン
エンロフロキサシン: 重症例
投与期間: 通常7~14日間
外用薬:
抗生物質入り軟膏・スプレー
フシジン酸、ゲンタマイシンなど
4. 抗炎症薬・痒み止め
ステロイド剤:
プレドニゾロン(内服)
炎症と痒みを素早く抑える
短期間(3~7日)の使用
非ステロイド性痒み止め:
オクラシチニブ(アポキル): 副作用が少ない
5. エリザベスカラーの装着
必須です。舐めることを物理的に防止します。
治療期間中、常時装着
取り外しは食事・排泄時のみ(監視下で)
通常1~2週間
6. 基礎疾患の治療
ホットスポットの原因となった基礎疾患の治療も同時に行います。
ノミ予防: ノミ駆除薬の投与
外耳炎の治療: 点耳薬
アレルギー🛒管理: 療法食、抗ヒスタミン剤
肛門嚢絞り: 肛門嚢の問題がある場合
治療期間と経過
軽症:
治療開始3~5日で改善
7~10日で治癒
中等症~重症:
1~2週間
深部感染の場合、3~4週間
経過観察:
治療開始2~3日後に再診
改善がなければ、抗生物質の変更を検討
治療法の比較表
ホットスポットの治療法を比較してみましょう。
| 治療法 | 効果 | 即効性 | 副作用 | 費用(目安) | 必須度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 被毛カット | 高い | なし | 無料~数千円 | ★★★★★ | 抗生物質内服 |
| 非常に高い | 中(1〜3日) | 消化器症状(稀) | 2千〜5千円 | ★★★★★ | 外用抗生物質 |
| 中〜高 | 中 | ほとんどなし | 1千〜3千円 | ★★★★☆ | ステロイド内服 |
| 非常に高い | 速い(数時間〜1日) | 多飲多尿、食欲増進 | 数百〜2千円 | ★★★★☆ | 痒み止め(アポキル) |
| 高い | 速い(数時間) | 少ない | 3千〜6千円 | ★★★★☆ | エリザベスカラー |
| 非常に高い | 即時 | ストレス | 1千〜3千円 | ★★★★★ |
最も効果的な組み合わせ: 被毛カット + 抗生物質内服 + エリザベスカラー + 痒み止め
自宅でのケア
治療と並行して、自宅でのケアが重要です。
エリザベスカラーの管理
装着のポイント:
首回りに指2本分の隙間
きつすぎず、抜けない程度
食事・水飲みの工夫:
食器を高い位置に置く(台を使う)
浅い皿を使用
カラーを外して監視下で食事(すぐ装着し直す)
ストレス軽減:
ソフトタイプのカラーを使用
ドーナツ型クッション🛒も選択肢
優しく声をかける、撫でる
環境管理
1. 室温・湿度の管理
エアコンで室温を25℃以下に
除湿器で湿度を50~60%に
2. 清潔な環境
ベッド、タオルを頻繁に洗濯
床の掃除
3. ストレス軽減
適度な運動(短時間の散歩)
おもちゃで気を紛らわす
患部のケア
1. 清潔に保つ
1日1~2回、清潔な湿らせたタオルで拭く
処方された外用薬を塗布
2. 乾燥させる
湿った状態を避ける
通気性を保つ
3. 観察
毎日、病変の大きさ、色、滲出液の量をチェック
悪化傾向があればすぐに受診
ホットスポットの予防
ホットスポットは再発率が高い疾患です。一度発症した犬の約30~50%が再発します。予防が非常に重要です。
基本的な予防策
1. 定期的なグルーミング
ブラッシング: 毎日、特に梅雨~夏
シャンプー: 月1~2回
完全な乾燥: シャンプー後、雨の後は必ずドライヤー🛒で乾かす
重要: 濡れた被毛は細菌の温床です。
2. 定期的なトリミング
特に長毛種、厚い被毛の犬種:
夏場はサマーカットを検討
問題部位(頬、腰、股)は短めに
3. ノミ・ダニ予防
月1回のノミ・ダニ予防薬(フィラリア予防と併用)
スポットオン、経口薬、首輪タイプなど
4. アレルギー管理
アレルギーがある犬:
療法食の継続
抗ヒスタミン剤、免疫療法
アレルゲンの除去
5. 耳のケア
週1回の耳掃除
外耳炎の早期発見・治療
耳毛の定期的な抜き取り(必要に応じて)
6. 肛門嚢の管理
月1回の肛門嚢絞り
トリミング時や動物病院で実施
7. 適度な運動
毎日の散歩
遊び、トレーニング
ストレス・退屈の軽減
好発時期の対策
梅雨~夏(5~9月):
1. 室内環境の管理
エアコン・除湿器の使用
被毛が湿ったままにしない
2. 散歩の工夫
早朝・夕方の涼しい時間帯
濡れた草むらを避ける
帰宅後、足と体を拭いて乾かす
3. 被毛の管理
こまめなブラッシング(毎日)
毛玉の除去
適度なカット
早期発見のポイント
毎日のチェック:
皮膚の赤み、湿り気
犬が特定部位を舐める、掻く行動
被毛の変化(濡れている、固まっている)
すぐに対処すべきサイン:
同じ部位を10分以上舐め続ける
小さな赤い斑点ができた
その部位を触ると嫌がる
早期発見できれば、軽症のうちに治療を開始でき、治癒も早くなります。
好発犬種の飼い主への注意
ゴールデン・レトリバー、ラブラドール、シベリアン・ハスキーなどの飼い主は、特に注意が必要です。
梅雨前(4月)にサマーカットを検討
水遊び後は必ず完全に乾かす
毎日の全身チェック
よくある質問
Q: ホットスポットは自然に治りますか? A: いいえ、自然治癒はほとんどありません。むしろ放置すると数時間で急激に悪化し、広範囲の深部感染に進行します。発見したらすぐに動物病院を受診してください。
Q: エリザベスカラーは外してあげたいのですが、短時間なら大丈夫ですか? A: 監視下で食事・排泄時のみ短時間(5~10分)外すのは可能ですが、それ以外は装着を続けてください。わずか数分舐めるだけでも、病変が悪化します。カラーを嫌がる場合は、ソフトタイプやドーナツ型を検討しましょう。
Q: 一度ホットスポットになると、繰り返しやすいですか? A: はい、再発率は30~50%と高いです。特に基礎疾患(アレルギー、外耳炎など)がコントロールされていない場合、同じ部位に再発することが多いです。予防策を継続することが重要です。
Q: 人にうつりますか? A: ホットスポット自体は人にうつりません。ただし、原因がノミやダニの場合、それらが人を刺すことはあります。
Q: シャンプー🛒しても大丈夫ですか? A: 治療中は、獣医師の指示に従ってください。通常、抗生物質が効いてきて改善傾向が見られれば(3~5日後)、薬用シャンプーでの洗浄が推奨されます。ただし、患部を強くこすらず、完全に乾かすことが必須です。
Q: 治療費はどれくらいかかりますか? A: 軽症で初診・内服薬・外用薬・エリザベスカラーを含めて5千〜1万円程度です。重症の場合や、複数回の通院が必要な場合は1.5万〜3万円程度かかることがあります。
まとめ
犬のホットスポット(急性湿疹)は、数時間から1日という短時間で急速に悪化する皮膚疾患です。特に梅雨から夏にかけて、厚い被毛を持つ犬種に多発します。早期発見・早期治療が極めて重要で、エリザベスカラーで舐めさせないことが治療の鍵となります。
ホットスポットの重要ポイント:
特徴: 数時間〜1日で急速に悪化する急性湿性皮膚炎
症状: 円形の赤く湿潤した病変、強い痒み・痛み、脱毛
好発: ゴールデン・レトリバー、ラブラドール、シベリアン・ハスキーなど厚い被毛の犬種
好発時期: 梅雨〜夏(5〜9月)が80%以上
原因: ノミ、アレルギー、外耳炎、外傷、高温多湿
緊急対処: エリザベスカラー装着、患部の冷却、すぐに受診
治療: 被毛カット + 抗生物質(7〜14日)+ 痒み止め + エリザベスカラー
治療期間: 軽症7〜10日、重症2〜4週間
再発率: 30〜50%と高い
予防: 毎日のブラッシング、完全な乾燥、ノミ予防、アレルギー管理
ホットスポットは適切な治療により1〜2週間で治癒しますが、再発しやすい疾患です。愛犬が特定の部位を執拗に舐めている、小さな赤い斑点ができたなどの初期サインを見逃さず、すぐに動物病院を受診しましょう。また、梅雨から夏にかけては、被毛を完全に乾かすこと、こまめなブラッシングで予防を心がけてください。






