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犬の咬傷の応急処置と感染予防

犬の咬傷の応急処置と感染予防の画像

公園で他の犬とじゃれ合っていた愛犬が、突然相手の犬に噛まれた。あるいは、自宅で興奮した愛犬が誤って飼い主を噛んでしまった。犬に噛まれた傷は見た目以上に深く、適切な処置をしなければ重篤な感染症を引き起こす可能性があります。

「傷が小さいから大丈夫」「うちの犬は清潔だから」—これは非常に危険な考えです。犬の口内には数十種類の細菌が常在しており、特にパスツレラ菌は犬の75%が保菌しています。本記事では、獣医師監修のもと、犬に噛まれた時の正しい応急処置🛒と感染予防の方法を詳しく解説します。

犬の噛み傷が危険な理由

見た目と実際のダメージのギャップ

犬の咬傷の応急処置と感染予防の画像4

犬の噛み傷の最大の特徴は、表面の小さな傷口から深部まで細菌が入り込むことです。

犬の歯の構造

  • 犬歯(牙)は細く鋭い

  • 表面の傷は小さくても、深部まで届く

  • 「点状の穴」の下に大きな損傷が隠れている

組織損傷のパターン

犬の咬傷の応急処置と感染予防の画像3
  • 皮膚:小さな穴(1〜2mm)

  • 皮下組織:広範囲に挫滅

  • 筋肉:裂傷や挫傷

  • 骨:骨折や骨膜損傷(強く噛まれた場合)

傷口が小さいように見えても実は深い場合が多いため、自己判断は大変危険です。

犬の口内に潜む細菌の世界

犬の🛒口内には30〜40種類以上の細菌が常在しています。これらは犬にとっては正常な口内細菌叢ですが、人間の傷口に入ると深刻な感染症を引き起こします。

細菌名犬の保菌率潜伏期間主な症状
パスツレラ菌75%数時間〜24時間腫脹、発赤、膿
ブドウ球菌60%1〜3日化膿、蜂窩織炎
連鎖球菌50%1〜5日発熱、リンパ節腫脹
カプノサイトファーガ30%1〜14日敗血症(免疫低下者)

犬に噛まれた直後の応急処置:5つのステップ

ステップ1:まず手を洗う(10秒)

他の人や自分の目・口・鼻を触る前に、自分の手をまず洗います。犬の唾液が手についている可能性があるためです。

ステップ2:流水で傷口を徹底洗浄(最低5分)

これが最も重要な処置です。流水で最低5分以上洗い流すことが感染予防の鍵となります。

正しい洗浄方法

  1. 水道を全開にする

- 弱い水流では不十分 - 強い水圧で細菌を物理的に洗い流す

  1. 傷口に直接水を当てる

- 周囲ではなく、傷口そのものに - 角度を変えながら全方向から

  1. 5分以上継続

- タイマーをセット - 途中で止めない

  1. 石鹸を使う(推奨)

- 刺激の少ない石鹸 - 石鹸は細菌やウイルスを死滅させる - 傷口に直接ではなく、周囲の皮膚に

水質について

  • 水道水で十分

  • ミネラルウォーターは不要

  • お湯は使わない(ぬるま湯程度ならOK)

ステップ3:止血(必要な場合のみ)

軽度の出血の場合

  1. 清潔なガーゼやタオル🛒で傷口を覆う

  2. 直接圧迫(5〜10分)

  3. 心臓より高い位置に保つ

注意点

  • 強く縛らない(血流を完全に止めない)

  • 10分経っても止まらない場合は救急受診

大量出血の場合

  • すぐに119番通報

  • 圧迫止血を継続しながら救急車を待つ

ステップ4:清潔なガーゼで覆う

洗浄後、以下の手順で傷口を保護します:

  1. 清潔なガーゼを用意

  2. 軽く当てる(締め付けない)

  3. 包帯やテープで固定

やってはいけないこと

  • ✕ 洗浄せずにガーゼを当てる

  • ✕ きつく縛りすぎる

  • ✕ 絆創膏で密閉する

ステップ5:病院に連絡・受診

応急処置が終わったら、必ず医療機関に連絡します。電話で以下を伝えます:

  • いつ噛まれたか

  • どの部位を噛まれたか

  • 傷の深さ・大きさ

  • 出血の程度

  • 相手の犬の情報(飼い犬か野良犬か)

病院は何科?受診すべき診療科

犬に噛まれた場合、以下の診療科で受診できます。

診療科特徴おすすめ度
形成外科深い傷、顔の傷に最適。縫合技術が高い★★★★★
外科緊急対応が得意。夜間も対応★★★★
皮膚科軽度の傷、感染後のフォロー★★★
整形外科骨まで達する傷、手足の傷★★★★
救急科大量出血、ショック状態★★★★★

噛まれた部位別の推奨科

  • 顔・首:形成外科(傷跡を最小限に)

  • 手・指:整形外科または形成外科

  • 腕・脚:外科または形成外科

  • 深い傷:外科または救急科

応急処置として水道水でキズをよく洗い流して、できるだけ速やかに形成外科を受診することが推奨されています。

病院での治療内容

診察と評価

医師は以下を確認します:

  1. 傷の深さと範囲

- 視診、触診 - 必要に応じてX線撮影(骨折の有無)

  1. 感染の兆候

- 発赤、腫脹、熱感 - 膿の有無

  1. 神経・血管・腱の損傷

- 感覚テスト - 動きのテスト

洗浄とデブリドマン

病院では、家庭での洗浄よりさらに徹底した処置を行います:

  • 生理食塩水での大量洗浄

  • 壊死組織の除去(デブリドマン)

  • 異物の除去

縫合するかしないか

縫合する場合

  • 顔・頭部の傷(美容上の理由)

  • 深く開いた傷

  • 出血が多い傷

縫合しない場合(開放創管理)

  • 噛まれてから時間が経っている(6時間以上)

  • 感染リスクが高い傷

  • 手足の複雑な傷

犬や猫の咬傷は縫合せずに自然治癒を待つことも多いです。

抗生物質の投与

ほぼ全例で抗生物質が処方されます:

注射(初回):

  • セファゾリンなどのセフェム系

  • アモキシシリン・クラブラン酸

内服薬(3〜7日間):

  • セファレキシン

  • アモキシシリン

  • クラリスロマイシン

破傷風予防

破傷風は日本国内でも毎年100例ほどの発症、5〜10例程度の死亡が報告されています。

破傷風ワクチンの接種基準

過去のワクチン接種歴清潔な傷汚染された傷
3回以上接種済み(10年以内)不要不要
3回以上接種済み(10年以上前)不要必要
不明または未接種必要必要+免疫グロブリン

費用

  • 破傷風ワクチン:3,000〜5,000円🛒(自費)

  • 破傷風免疫グロブリン:15,000〜30,000円(自費)

狂犬病の心配は?

日本国内日本国内では犬を含めて狂犬病は発生していないので、感染の心配はありません

海外で噛まれた場合

  • すぐに現地の医療機関を受診

  • 狂犬病ワクチン接種が必要

  • 帰国後も継続治療

犬の噛み傷から起こる感染症

パスツレラ症

最も頻度が高い感染症で、数時間〜24時間という早期に症状が出るのが特徴です。

症状

  • 噛まれた部位の急速な腫脹

  • 強い痛み

  • 発赤

  • 化膿

重症化すると

  • 蜂窩織炎(皮下組織の広範囲感染)

  • 骨髄炎

  • 敗血症

治療

  • ペニシリン系またはセフェム系抗生物質

  • 早期治療で完治

蜂窩織炎

皮下組織に細菌が広がる感染症です。

症状

  • 噛まれた部位を中心に赤く腫れる

  • 境界が不明瞭

  • 熱感、痛み

  • 発熱

治療

  • 抗生物質の点滴

  • 場合によって入院

カプノサイトファーガ感染症

免疫力が低下している人に危険な感染症です。

ハイリスク群

症状

  • 発熱、倦怠感

  • 敗血症

  • 多臓器不全(致死率30%)

絶対にやってはいけない4つのこと

1. 消毒液で最初に消毒する

傷口をまず消毒液で消毒するのは逆効果です。

理由

  • 消毒液では細菌を完全に除去できない

  • 正常な組織も傷つける

  • 治癒を遅らせる

正しい順序: 流水洗浄 → 病院 → (医師の判断で)消毒

2. 傷口を舐める・唾液を塗る

「唾液には殺菌作用がある」という俗説がありますが、これは危険です。

理由

  • 人間の口内にも多くの細菌がいる

  • さらなる感染のリスク

  • 治癒を妨げる

3. 自己判断で病院に行かない

「傷が小さいから」「痛くないから」という理由で受診しないのは危険です。

実際のケース

  • 表面:直径2mmの穴

  • 深部:3cmの裂傷と筋肉損傷

  • 結果:緊急手術が必要に

4. 絆創膏で密閉する

噛み傷を絆創膏🛒で完全に密閉すると、嫌気性菌(酸素がない環境で増殖する菌)が繁殖します。

正しい方法

  • ガーゼで軽く覆う

  • 通気性を保つ

  • 病院で適切な処置を受ける

感染の早期発見:危険なサイン

以下の症状が出たら、すぐに病院を再受診してください。

24時間以内

パスツレラ症の可能性

  • 噛まれた部位が急速に腫れる

  • 強い痛み

  • 赤く熱を持つ

  • 膿が出る

1〜3日後

一般的な細菌感染の可能性

  • 傷の周囲が赤く広がる

  • 腫れが引かない

  • 悪臭を伴う分泌物

全身症状

重症感染・敗血症の可能性

  • 発熱(38℃以上)

  • 悪寒、震え

  • 全身倦怠感

  • 吐き気、嘔吐

  • 意識朦朧

これらは生命を脅かす状態です。夜間でも救急受診してください。

治療後のケアと通院

自宅でのケア

傷の管理

  • 医師の指示通りにガーゼ交換

  • 清潔を保つ

  • 濡らさない(入浴時は防水フィルムで保護)

抗生物質の服用

  • 必ず最後まで飲み切る

  • 症状が良くなっても中断しない

  • 副作用があれば医師に連絡

通院スケジュール

日数目的内容
翌日〜3日後経過確認感染兆候チェック、ガーゼ交換
5〜7日後抜糸(縫合した場合)傷の治癒状態確認
2週間後最終確認完治の確認、瘢痕評価

犬の噛み傷を予防する対策

自分の犬に噛まれないために

  1. 過度な興奮を避ける

  2. 食事中・睡眠中は触らない

  3. 痛みがある時は刺激しない

  4. 子供と犬を二人きりにしない

他人の犬に噛まれないために

  1. 許可なく触らない

  2. 目を見つめない(犬は挑戦と受け取る)

  3. 急に近づかない

  4. 逃げない(追いかけられる)

  5. 攻撃的な犬からは静かに離れる

まとめ:犬の噛み傷は必ず病院へ

犬の噛み傷は、見た目以上に深刻な状態になることがあります。適切な処置が感染を防ぎ、早期回復につながります。

犬に噛まれた時の対応まとめ

  • まず自分の手を洗う

  • 流水で傷口を最低5分洗浄(最重要)

  • 石鹸を使う(刺激の少ないもの)

  • 清潔なガーゼで覆う

  • 傷の大小に関わらず必ず病院へ

  • 形成外科・外科・整形外科を受診

  • 抗生物質と破傷風予防を受ける

  • 感染の兆候に注意し、異常があればすぐ再受診

覚えておくべき重要事項

  • 犬の75%がパスツレラ菌を保菌

  • パスツレラ症は数時間で発症

  • 「小さい傷」でも深部まで細菌が入る

  • 日本国内の狂犬病の心配は不要

  • 最も重要なのは流水での徹底洗浄

この記事の情報が、いざという時にあなたや周囲の人を守る助けとなれば幸いです。噛まれた直後の5分間の行動が、その後の経過を大きく左右します。

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