「最近、愛犬の様子がおかしい」「夜中に吠えるようになった」「トイレ🛒を失敗することが増えた」——シニア犬と暮らす飼い主さんなら、こんな変化に心当たりがあるかもしれません。これらの症状は、もしかすると犬の認知症のサインかもしれません。
犬も人間と同じように、年齢を重ねると認知機能が低下することがあります。この記事では、犬の認知症(認知機能不全症候群・CDS)について、症状のチェック方法から対処法まで詳しく解説します。早期発見と適切なケアで、愛犬との大切な時間を少しでも長く、穏やかに過ごしましょう。
犬にも認知症がある?認知機能不全症候群(CDS)とは
犬の認知症は、正式には認知機能不全症候群(Cognitive Dysfunction Syndrome:CDS)と呼ばれます。これは加齢に伴う脳の変化により、認知機能が徐々に衰えていく病気です。コーネル大学獣医学部の研究によると、人間のアルツハイマー病と非常によく似た病態を示すことがわかっています。

発症率と年齢
CDSは決して珍しい病気ではありません。アメリカで実施された調査によると、以下のような発症率が報告されています:
| 年齢 | 認知症症状を示す割合 |
|---|---|
| 11〜12歳 | 約30% |
| 15〜16歳 | 約70% |
つまり、15歳を超えた犬の約7割が何らかの認知症症状を示すという衝撃的なデータがあるのです。8歳以上の犬全体では14%〜35%がCDSに罹患しているとされています。

日本での特徴:柴犬に多い理由
興味深いことに、日本動物医療センターの報告によると、日本で認知症🛒と診断される犬の約80%が柴犬であるとされています。これは遺伝的な要因が関係していると考えられていますが、柴犬が日本で人気の犬種であることや、長寿であることも影響している可能性があります。
脳で何が起きているのか
CDSの犬の脳では、以下のような変化が起きています:
βアミロイドタンパク質の蓄積:人間のアルツハイマー病と同様の病変
神経細胞の減少:特に前頭葉と海馬領域で顕著
ドーパミンなど神経伝達物質の減少:行動や認知機能に影響
脳の血流低下:酸素や栄養の供給不足
これらの変化は徐々に進行するため、初期症状は「年のせい」と見過ごされがちです。しかし、早期発見・早期対応が重要なのは、人間の認知症と同じです。シニア犬との暮らし方について理解を深め、愛犬🛒の変化に気づける観察眼を養いましょう。
認知症の症状:DISHAAチェックリストで確認
犬の認知症を評価するために、獣医学の世界ではDISHAA(ディシャー)というチェックリストが広く使われています。Purina Instituteの研究資料でも紹介されているこのツールは、認知症の6つの主要な症状カテゴリーの頭文字を取ったものです。
D - 見当識障害(Disorientation)
見当識障害とは、時間や場所、人の認識が混乱する状態を指します。
具体的な症状:
いつもの散歩コースで迷子になる、または違う方向に行こうとする
家の中で迷う、馴染みのある場所がわからなくなる
家具の間や部屋の隅に入り込んで、自力で出られなくなる
長年一緒に暮らしている家族を認識できない様子を見せる
ドアの開く側(蝶番側)で待ってしまう
I - 社会的交流の変化(Interactions)
家族や他のペット🛒との関わり方に変化が現れます。
具体的な症状:
なでられても以前のように喜ばなくなった
飼い主への愛着が薄れた、または逆に過度に依存するようになった
突然攻撃的になる、噛みつくことがある
他のペットへの関心が薄れた、または敵対的になった
遊びに誘っても反応しない
S - 睡眠覚醒サイクルの変化(Sleep-wake cycle)
昼夜のリズムが乱れ、特に夜間の問題行動が目立つようになります。夜中に起きる・徘徊する老犬の夜間ケアも参考にしてください。
具体的な症状:
昼夜逆転:昼間はずっと寝ていて、夜になると活動的になる
夜中の徘徊:目的もなく歩き回る
夜鳴き:抑揚のない単調な声で鳴き続ける
夜中に突然吠える
睡眠時間の極端な増加または減少
H - 排泄の失敗(House soiling)
長年できていたトイレの習慣が崩れてきます。
具体的な症状:
トイレの場所を忘れる
室内での粗相が増える
排泄の合図(ドアの前で待つなど)をしなくなる
名前やコマンドへの反応が鈍くなる
以前覚えていた芸や指示を忘れる
A - 活動性の変化(Activity)
活動パターンに明らかな変化が見られます。
具体的な症状:
目的のない歩行:ウロウロと同じ場所を歩き続ける
旋回行動:同じ方向にぐるぐる回り続ける
ぼんやりと一点を見つめる(空中を見つめる)
遊びやおもちゃ🛒への興味を失う
食欲の極端な変化(過食または食欲不振)
A - 不安の増加(Anxiety)
不安やストレス🛒に関連した行動が増えます。
具体的な症状:
分離不安の悪化:飼い主がいないと極度に不安になる
音(雷、花火など)や光への過敏反応
落ち着きがなく、常にソワソワしている
特定の場所や状況を怖がるようになる
過度の舐め行動やかじり行動
AAHA(アメリカ動物病院協会)のシニアケアガイドラインでは、これらの症状のうち2つ以上のカテゴリーで変化が見られる場合、CDSの可能性が高いとされています。
自宅でできる認知症スコアチェック
愛犬の状態を客観的に評価するために、自宅でもできるスコアチェックを紹介します。オハイオ州立大学のCDS資料を参考に、以下の方法で評価してみましょう。
DISHAAスコアリング方法
8歳以降に新たに出てきた、または悪化した症状について、以下の基準で点数をつけます:
| スコア | 頻度 |
|---|---|
| 0点 | なし |
| 1点 | まれにある(月に1〜2回程度) |
| 2点 | 時々ある(週に1〜2回程度) |
| 3点 | 最低でも1日1回以上、または常にある |
スコアの解釈
各カテゴリーの点数を合計し、以下の基準で認知症🛒の程度を判断します:
| 合計スコア | 認知症レベル | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 0〜3点 | 正常範囲 | 予防的なケアを継続 |
| 4〜15点 | 軽度 | 獣医師に相談、生活環境の改善 |
| 16〜33点 | 中程度 | 積極的な治療と介護の開始 |
| 34点以上 | 重度 | 専門的な治療と手厚い介護が必要 |
内野式100点法
日本独自の評価方法として、内野式100点法(犬痴呆の判断基準100点法)も広く使われています。こちらは100点満点で評価し:
30点以下:生理的な老化の範囲
31〜49点:認知症予備群(要注意)
50点以上:認知症の可能性が高い
チェック時の注意点
⚠️ 重要な注意事項
セルフチェック🛒はあくまで目安です。以下の点に注意してください:
他の病気でも似た症状が出る:痛み、視力低下、聴力低下、内分泌疾患などでも同様の行動変化が起きることがあります
必ず獣医師の診断を受ける:セルフチェックで高スコアが出ても、自己判断で治療を始めないでください
定期的にチェックする:月に1回程度、同じ基準で評価することで変化を追跡できます
獣医師による診断:何を検査する?
CDSの診断は「除外診断」が基本です。つまり、似た症状を引き起こす他の病気がないことを確認してから、CDSと診断されます。シニア犬の健康診断を定期的に受けることで、早期発見につながります。
鑑別すべき疾患
PubMedに掲載された研究論文によると、以下の疾患がCDSと似た症状を示すことがあります:
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):多飲多尿、過食、落ち着きのなさ
甲状腺機能低下症:活動性低下、認知機能への影響
糖尿病:行動変化、視力低下による見当識障害
慢性腎臓🛒病:夜間頻尿、食欲変化
脳腫瘍:神経症状、行動変化
関節炎などの慢性痛:活動性低下、睡眠障害
視力・聴力の低下:見当識障害に似た症状
診断のための検査
獣医師は通常、以下の検査を行います:
問診:症状の開始時期、進行速度、日常生活への影響
身体検査:全身状態、神経学的検査
血液検査:内臓機能、ホルモンバランスの確認
尿検査:腎機能、糖尿病のチェック🛒
画像診断:必要に応じてX線、超音波、MRIなど
これらの検査で他の疾患が除外され、DISHAAの複数カテゴリーで症状が確認された場合、CDSと診断されます。
犬の認知症の治療法
残念ながら、CDSを完全に治す方法は現時点ではありません。しかし、適切な治療により症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することは可能です。治療は大きく3つの柱から成り立っています。
薬物療法:セレギリン(Anipryl)
セレギリン(商品名:Anipryl/アニプリル)は、アメリカFDAが犬のCDS治療薬として承認した唯一の薬です。
作用メカニズム:
MAO-B(モノアミン酸化酵素B)を阻害
脳内のドーパミン濃度を高める
神経保護作用と抗酸化作用
効果:
約70%の犬に効果があるとされています
641頭を対象とした臨床試験では、60日間で77%の犬に改善が見られました
4週間程度で効果が現れ始め、長期投与でさらに🛒改善することも
投与量と注意点:
体重1kgあたり0.5〜1mg、1日1回朝に投与
副作用:嘔吐、下痢、食欲不振などが稀に見られる
他の薬との相互作用に注意が必要(特に抗うつ薬との併用は禁忌)
食事療法
ヒルズペットの専門家によると、適切な食事療法はCDSの管理に重要な役割を果たします。
重要な栄養素:
| 栄養素 | 効果 |
|---|---|
| DHA・EPA(オメガ3脂肪酸) | 神経細胞の保護と修復 |
| 抗酸化物質(ビタミンE、C、セレン) | 脳細胞の酸化ダメージを軽減 |
| 中鎖脂肪酸(MCT) | 脳のエネルギー源として機能 |
| L-カルニチン | 細胞のエネルギー代謝をサポート |
処方食の例:
Hill's Prescription Diet b/d
Purina Pro Plan Neurocare
Royal Canin Veterinary Canine Mature Consult
研究では、MCTを含む食事を与えられたシニア犬は、2週間で記憶力の改善が見られたという報告もあります。
サプリメント
薬物療法や食事療法と併用して、サプリメント🛒も効果的です。関節ケアのサプリメントと同様に、認知症用のサプリメントも多く販売されています。
主なサプリメント:
DHA・EPAサプリ
- 脳の健康維持に必須 - 魚油由来のものが一般的
メラトニン
- 睡眠リズムの改善に効果 - 夜泣き対策として就寝30分前に投与
ガード🛒ワン / フェルガード100M
- 日本製の認知症サプリメント - 日本認知症予防学会認定 - フェルガードは特に夜泣きに効果的とされる
アンチノール
- 抗炎症作用のあるサプリメント - 認知症にも効果が期待される
SAMe(S-アデノシルメチオニン)
- 神経伝達物質の合成をサポート
⚠️ サプリメントは副作用が少ない一方、効果の出方には個体差があります。獣医師と相談しながら、愛犬に合ったものを選びましょう。
自宅でできる対処法と環境改善
治療と並行して、自宅での環境改善やケアも非常に重要です。日々の生活の中で実践できる対処法を紹介します。
夜泣き・夜間徘徊への対処
認知症の犬で最も困る症状の一つが夜泣きです。飼い主さんの睡眠不足にもつながるため、対策が必要です。
昼夜逆転を防ぐ:
昼間の日光浴:体内時計をリセットするために重要
日中の適度な運動:散歩や軽い遊びで疲れさせる
昼寝を長くさせない:日中に起こして活動させる
夜間の安全対策:
円形サークル:徘徊しても壁にぶつからない
クッション🛒材で保護:怪我防止
適度な室温管理:快適な睡眠環境
近隣への配慮:
防音対策を検討
事前に状況を説明しておく
必要に応じて獣医師に相談(軽い鎮静剤の処方など)
安全な環境づくり
バリアフリー化で老犬に優しい住環境を目指しましょう。
環境改善のポイント:
角のクッション保護:家具の角にぶつかっても怪我しないように
段差の解消:スロープやステップの設置
すべりにくい床材:マットやカーペットを敷く
危険物の撤去:電気コードや小物を片付ける
動線の確保:家具の配置を変えない
排泄管理
おもらしが増えた場合の失禁対策も参考にしてください。
実践的な対策:
おむつの活用:皮膚トラブル予防のため、こまめに交換
防水シーツ:寝床には必ず敷く
トイレの場所を増やす:家の複数箇所にペットシーツ🛒を設置
排泄パターンの観察:時間帯を把握してトイレに誘導
脳への刺激
認知機能の維持には適度な刺激が重要です。
効果的な刺激:
簡単な知育おもちゃ:フードを中に入れるタイプなど
散歩コースの変更:新しい匂いや景色で好奇心を刺激
スキンシップとマッサージ:毎日の触れ合い
名前を呼ぶ、話しかける:コミュニケーションを続ける
新しいことを教える:無理のない範囲で簡単な芸
老犬介護に便利なグッズ20選も活用して、介護の負担を軽減しましょう。
認知症を予防するために今からできること
CDSは完全に予防することはできませんが、発症リスクを下げたり、進行を遅らせたりすることは可能です。愛犬の年齢と老化のサインを把握し、早めの対策を始めましょう。
若いうちからの脳トレ
実践方法:
知育おもちゃ🛒での遊び
新しいコマンドを教える
ノーズワーク(嗅覚を使った遊び)
問題解決を必要とするゲーム
脳を使う活動は神経細胞の新しいつながりを作り、認知機能の維持に役立ちます。
適度な運動習慣
ポイント:
毎日の散歩を欠かさない
年齢に合った運動強度
社会的交流の機会を作る(ドッグランなど)
体重管理にも効果的
運動は脳への血流を増やし、神経細胞の健康を維持します。
質の良い食事
心がけること:
年齢に合ったフード🛒を選ぶ
オメガ3脂肪酸を含む食事
抗酸化物質が豊富な食材
過度な添加物を避ける
社会的交流の維持
大切なこと:
家族との触れ合いを毎日
他の犬や人との交流機会
孤独にさせない
愛情を持って接する
定期的な健康診断
推奨頻度:
7歳までは年1回
7歳以降は年2回
気になる変化があればすぐに受診
シニア犬の生活の質向上のためにも、予防的なケアを心がけましょう。
介護する飼い主さんへ:心のケアも忘れずに
認知症の愛犬を介護することは、精神的にも肉体的にも大きな負担がかかります。飼い主さん自身のケアも忘れないでください。
介護疲れへの対処
自分を労わることも大切:
完璧を目指さない:できる範囲でベストを尽くせば十分
休息を取る:自分の睡眠と健康を優先する時間も必要
趣味や気分転換:介護以外の時間も持つ
家族で分担:一人で抱え込まない
専門家への相談
困ったときは遠慮なく助けを求めましょう:
獣医師:治療や投薬について
動物看護師:日常ケアのアドバイス
動物介護士:介護技術の指導
ペットシッター:一時的な預かり
できることに焦点を当てる
認知症は進行性の病気ですが、今この瞬間の愛犬との時間を大切にしましょう。
「できなくなったこと」より「まだできること」に目を向ける
小さな反応や喜びを見つける
穏やかな時間を一緒に過ごす
愛犬があなたを認識してくれる瞬間を宝物に
老犬のストレスを減らす環境と接し方も参考に、愛犬にとっても飼い主さんにとっても心地よい環境を作りましょう。
まとめ:愛犬の認知症と向き合うために
犬の認知症(CDS)は、シニア犬🛒に多く見られる加齢性の疾患です。この記事で紹介したポイントをまとめます:
早期発見のために:
DISHAAチェック🛒リストで定期的に愛犬の状態を確認
6つのカテゴリー(見当識障害、社会的交流、睡眠、排泄、活動性、不安)の変化に注目
気になる症状があれば早めに獣医師に相談
治療と対処法:
薬物療法(セレギリン)、食事療法、サプリメントの3本柱
環境改善と生活習慣の見直し
脳への適度な刺激と安全な環境づくり
予防のために:
若いうちからの脳トレと適度な運動
質の良い食事と社会的交流
定期的な健康診断
認知症は完治する病気ではありませんが、適切なケアによって愛犬のQOL(生活の質)を維持し、穏やかな時間を過ごすことは十分に可能です。
シニア犬との暮らしは、時に大変なこともありますが、長年連れ添った愛犬との絆はかけがえのないものです。この記事が、認知症に悩む飼い主さんの一助となれば幸いです。愛犬との残された時間を、どうか穏やかに、愛情深く過ごしてください。





