愛犬が突然倒れ、呼吸が止まり、心臓も動いていない—。このような最悪の事態に直面したとき、あなたは何ができるでしょうか?救急車を呼ぶ?動物病院🛒に電話する?それらももちろん重要ですが、犬の心肺蘇生法(CPR)を知っていれば、その数分間が愛犬の命を救うかもしれません。
脳への酸素供給が5分間断たれると、蘇生しても重大な後遺症が残る可能性があります。つまり、動物病院に到着する前の「今この瞬間」の対応が、愛犬の生死を分けるのです。本記事では、獣医師監修のもと、犬の心肺蘇生法の正しい手順を詳しく解説します。
心停止とは?CPRが必要な状態を見極める
心停止(CPA)の定義

心停止とは、心臓のポンプ機能が完全に停止した状態を指します。医学用語では「CPA(Cardiopulmonary Arrest:心肺停止)」と呼ばれ、心臓が止まると同時に呼吸も停止します。心停止状態では、全身への血液循環が止まり、特に脳へ酸素が届かなくなるため、一刻を争う緊急事態です。
心停止かどうかの確認方法
CPRを始める前に、本当に心停止しているかを確認する必要があります。ただし、確認に時間をかけすぎてはいけません。10秒以内に以下をチェックします:
呼吸の確認

胸が上下に動いているか観察する
鼻の前にティッシュを垂らして動くか確認する
自分のメガネを犬の鼻先に近づけて曇るか見る
正常な犬の呼吸数は1分間に10〜35回です。全く呼吸していない、または非常に弱い呼吸(死戦期呼吸)の場合は緊急対応が必要です。
脈拍の確認
後ろ足の付け根の内側にある大腿動脈に指を当てる
「トクトク」という拍動を感じるか確認する
ただし、獣医学的研究によると、10秒間以内に脈の欠如を正確に認識できる人は2%しかおらず、心停止症例の35%で「脈がある」と誤診されています。そのため、脈拍確認に自信がない場合は、呼吸停止を確認できた時点でCPRを開始することが推奨されます。
CPRを開始すべき状況
以下のいずれかに該当する場合、ただちにCPRを開始してください:
呼吸が完全に止まっている
心臓の音が聞こえない
意識がなく、刺激に全く反応しない
歯茎や舌が真っ白または青紫色になっている
瞳孔が拡張して光に反応しない
2024年最新版!RECOVERガイドラインに基づくCPRの基本
RECOVERガイドラインとは
RECOVER(Reassessment Campaign on Veterinary Resuscitation)は、獣医療における心肺蘇生のための国際的なガイドラインです。2024年🛒に更新され、犬猫の心肺蘇生に対する90の個別推奨事項が導き出されました。
CPRの基本原則:CAB
人間のCPRでは以前「ABC(気道確保→呼吸→循環)」の順番でしたが、現在の獣医療CPRでは「CAB」の順番が推奨されています:
C(Circulation:循環):心臓マッサージを最優先
A(Airway:気道):気道を確保
B(Breathing:呼吸):人工呼吸を行う
なぜ心臓マッサージが最優先なのか?それは、血液循環が止まると脳へのダメージが急速に進むためです。気道確保や人工呼吸の準備に時間をかけるよりも、まず胸骨圧迫を開始することが重要とされています。
CPRの黄金比:30:2
心臓マッサージ30回と人工呼吸2回を1セットとするのが基本です。これを「30:2の比率」と呼びます。
1セットを終えたら次のセットに移り、5〜20分程度継続します。3セット(約2分)ごとに蘇生確認(呼吸と脈拍のチェック)を行いますが、この確認は10秒以内に済ませ、すぐにCPRを再開します。
心臓マッサージ(胸骨圧迫)の正しいやり方
犬の体位を整える
まず、犬を右側を下にして横向き(右側臥位)に寝かせます。これは、心臓が体の左側にやや偏って位置しているため、左側を上にすることで効果的な圧迫ができるからです。
硬い平らな床の上に寝かせてください。柔らかいクッション🛒やベッドの上では、圧迫の力が分散してしまい効果が半減します。
圧迫する場所を見つける
犬の体型によって最適な圧迫位置が異なります:
樽型の胸(ブルドッグ、パグなど短頭種)
胸の最も幅が広い部分
犬を仰向けにして、胸骨(胸の真ん中の骨)を直接押す方法も効果的
通常の胸型(ラブラドール、ゴールデンレトリバーなど)
左前肢の肘を曲げて胸に押し当てたとき、肘が当たる位置
肋骨の中間あたり
細長い胸(グレイハウンド、ウィペットなど)
胸の最も幅が広い部分
手の置き方と圧迫方法
小型犬(10kg未満)
片手で犬の胸を包み込むように持つ
親指を片側、他の指を反対側に置き、両側から挟むように圧迫
または、片手の手のひらで胸を押す
中型犬〜大型犬(10kg以上)
片手の手のひらの付け根を圧迫位置に置く
もう一方の手を重ねる
肘を伸ばし、体重を利用して垂直に押す
人間のCPRと同じ要領
圧迫の深さとペース
深さ
胸の幅の1/3〜1/2まで沈むように押す
小型犬:約2〜3cm
中型犬:約3〜5cm
大型犬:約5〜7cm
ペース
100〜120回/分(1秒間に約2回)
「アンパンマンのマーチ」や「世界に一つだけの花」のテンポがちょうど100回/分程度
リズム
「1、2、3、4、5...」と声に出して数えながら行う
「押す→完全に戻す→押す→完全に戻す」をリズミカルに繰り返す
圧迫後は胸が完全に元の形に戻るまで手を離すことが重要(不完全な減圧は効果を大幅に下げる)
人工呼吸(マウストゥノーズ)の正しいやり方
心臓マッサージ🛒を30回行ったら、次は人工呼吸を2回行います。
ステップ1:気道を確保する
犬の首をまっすぐ伸ばす(過度に反らせない)
口を軽く開けて、舌を少し外に引き出す
- 舌根沈下(舌が喉の奥に落ち込むこと)を防ぐため - ただし、引っ張りすぎると気道が狭くなるので注意
喉の奥や口の中に異物がないか確認し、あれば取り除く
ステップ2:マウストゥノーズで息を吹き込む
人間と違い、犬への人工呼吸は「鼻から」息を吹き込みます(マウストゥノーズ/マウストゥスナウト)。
手順:
犬の口を手で閉じる(唇の端までしっかり押さえて空気が漏れない🛒ように)
自分の口で犬の鼻全体を覆う
約1秒かけて、ゆっくりと息を吹き込む
犬の胸が少し膨らむのを横目で確認
口を離して、犬の肺から自然に空気が出るのを待つ
もう1回繰り返す(計2回)
人工呼吸の注意点
吹き込む量に注意 体の小さい犬や猫は肺も小さいため、吹き込みすぎると肺が破れる危険があります。特に肺活量の大きい男性が小型犬に思いっきり息を吹き込むのは危険です。
| 犬のサイズ | 吹き込む息の量 | 目安 |
|---|---|---|
| 小型犬(〜10kg) | 少量 | 自分の息の1/4程度 |
| 中型犬(10〜25kg) | 中程度 | 自分の息の1/2程度 |
| 大型犬(25kg〜) | やや多め | 自分の息の3/4程度 |
効果の確認
胸が軽く膨らめばOK
膨らまない場合は気道が確保できていない可能性
口の横から空気が漏れていないか確認
衛生面の心配 緊急時は衛生面を気にしている余裕はありませんが、可能であればガーゼやハンカチを鼻の上に当てて行うこともできます。
CPR実施の完全フローチャート
ここまでの内容を、実際の緊急時に従えるフローチャートにまとめました。
ステップ1:安全確認(5秒)
周囲の安全を確認
感電、交通事故などの二次災害リスクをチェック
犬を安全な場所に移動(必要な場合のみ)
ステップ2:意識・呼吸・循環の確認(10秒以内)
名前を呼んで反応を見る
呼吸をしているか確認
可能なら脈拍を確認
↓ 反応なし、呼吸なし、脈拍なし
ステップ3:助けを呼ぶ(同時進行)
他に人がいれば動物病院に電話してもらう
一人の場合は、CPRを2分間行ってから電話
ステップ4:CPR開始
心臓マッサージ🛒30回
右側臥位に寝かせる
適切な位置を圧迫
深さ:胸幅の1/3〜1/2
ペース:100〜120回/分
↓
人工呼吸2回
気道確保
マウストゥノーズで1秒ずつ2回
胸の膨らみを確認
↓
これを繰り返す
ステップ5:2分ごとに蘇生確認(10秒以内)
呼吸が戻ったか
脈拍が戻ったか
すぐにCPR再開
ステップ6:継続または中止の判断
CPRを継続する場合:
心拍や呼吸が戻らない
動物病院到着まで、または獣医師の指示があるまで継続
通常5〜20分程度
CPRを中止する場合:
心拍と呼吸が戻った
獣医師が到着した
実施者が疲労で継続不可能
明らかな死亡の兆候(死後硬直など)
CPR実施時のよくある疑問と回答
Q1:CPRは誰が行ってもいいの?
A:はい。緊急時は飼い主でも行うべきです。「資格がないから」「自信がないから」と躊躇している間に、愛犬の脳はダメージを受け続けます。完璧でなくても、何もしないよりはるかにマシです。
Q2:肋骨が折れたらどうするの?
A:CPR中に肋骨が折れることはあります。しかし、肋骨は後で治療できますが、脳のダメージは取り返しがつきません。適切な深さで圧迫している限り、肋骨骨折を恐れて手加減する必要はありません。
Q3:人工呼吸だけではダメ?
A:心臓マッサージ🛒だけでもある程度の効果はありますが、人工呼吸を組み合わせた方が蘇生率は高まります。ただし、人工呼吸ができない状況(感染症の疑い、口周りの重度の外傷など)では、心臓マッサージのみを継続してください。
Q4:いつまで続ければいいの?
A:一般的には20分が一つの目安です。20分経っても反応がない場合、蘇生の可能性は非常に低くなります。ただし、低体温症や溺水の場合はもっと長く続けることもあります。
Q5:成功率はどのくらい?
A:動物病院内で専門家が行うCPRでも、蘇生率は約6〜10%程度と報告されています。一般の飼い主が行う場合はさらに低くなりますが、CPRを行わなければ蘇生率は0%です。
CPRを学ぶ方法:ペットセーバー講習とは
知識として読むだけでなく、実際に練習しておくことが重要です。日本では「ペットセーバー」という認定資格があり、一般の飼い主を対象に犬と猫の心肺蘇生法を学ぶ講習会が全国で開催されています。
ペットセーバー講習の内容
犬猫の心肺蘇生法の実技練習
AED(自動体外式除細動器)の使い方
窒息時の対応(ハイムリック法)
出血時の止血法
ペット用救急箱の作り方
講習は半日〜1日で、修了すると認定証が発行されます。犬のCPR訓練用マネキンを使って実際に練習できるので、緊急時に慌てず対応できるようになります。
CPRが必要になる主な原因と予防
心停止の主な原因
心臓疾患
拡張型心筋症(大型犬に多い)
僧帽弁閉鎖不全症(小型犬に多い)
不整脈
呼吸器疾患
気管虚脱
誤嚥性肺炎
重度の肺炎
外傷・事故
交通事故
高所からの落下
感電
中毒
チョコレート、ぶどう、玉ねぎなどの誤食
人間用の薬の誤飲
殺虫剤、除草剤などの毒物
その他
熱中症
低体温症
アナフィラキシーショック
重度の出血
予防のためにできること
定期的な健康診断:年1回以上、特に7歳以上は年2回
適切な運動管理:心臓に負担をかけすぎない
体重管理:肥満は心臓病のリスク因子
誤飲予防:危険なものは犬の届かない場所に
交通事故予防:散歩は必ずリード🛒をつける
熱中症予防:暑い日の散歩や車内放置に注意
まとめ:CPRは「知っておくだけ」では意味がない
犬の心肺蘇生法について詳しく解説してきましたが、最も重要なのは「実際に動けるかどうか」です。
CPRのポイント総まとめ:
脳へのダメージは5分で始まる—時間との戦い
確認は10秒以内、迷ったらすぐ開始
CABの順番:心臓マッサージが最優先
30回の心臓マッサージ+2回の人工呼吸がワンセット
深さは胸幅の1/3〜1/2、ペースは100〜120回/分
人工呼吸は犬の鼻から息を吹き込む
2分ごとに蘇生確認、20分を目安に継続
この記事を読んだ今日から、ぜひ愛犬で練習してみてください(実際には圧迫しませんが、位置と手の置き方の確認)。そして可能であれば、ペットセーバー講習を受講して、本物のマネキンで実技練習することを強くお勧めします。
「まさかうちの犬が」と思うかもしれません。しかし、緊急事態はいつ起こるかわかりません。その「まさか」のときに、あなたの知識と行動が愛犬の命を救うのです。






