愛犬がおもちゃや食べ物を喉に詰まらせ、苦しそうに前足で口を掻きむしり、ゼーゼーと荒い呼吸をしている。舌が青紫色に変色し、今にも倒れそう…。このような犬の窒息は、飼い主にとって最も恐ろしい緊急事態の一つです。
窒息は数分で命に関わる状態に進行します。救急車を呼ぶ時間すらありません。この瞬間、あなたの知識と行動だけが愛犬の命を救えるのです。本記事では、獣医師監修のもと、犬の窒息時に使える3つの異物除去法「背部叩打法」「ハイムリック法」「チェストトラスト法」を詳しく解説します。
犬の窒息とは?完全閉塞と部分閉塞の違い
窒息のメカニズム

窒息とは、何らかの異物が気道(空気の通り道)を塞ぎ、呼吸ができなくなった状態です。気道閉塞には2つのタイプがあります。
完全閉塞
気道が完全に塞がれている
全く空気が通らない
数分で意識を失い、心停止に至る
最も危険な状態
部分閉塞

気道が部分的に塞がれている
わずかに空気が通る
ゼーゼー、ヒューヒューという音がする
時間とともに完全閉塞に移行する可能性
窒息の主な原因
食べ物による窒息
骨や軟骨の破片
大きすぎるドッグフードの粒
丸飲みした肉の塊
固いおやつ(牛のひづめ、豚の耳など)
おもちゃによる窒息
小さなゴムボール
おもちゃの破片
ぬいぐるみ🛒の綿
ロープの繊維
その他の異物
誤飲した小物(ボタン、ビー玉など)
嘔吐物の誤嚥
唾液や痰の誤嚥(高齢犬)
窒息のサイン:これらの症状を見逃すな!
初期症状(部分閉塞)
呼吸の異常
ゼーゼー、ヒューヒュー、ガーガーという異常な呼吸音
呼吸が速く浅くなる
首を伸ばして呼吸しようとする
座ったまま動けない(犬座姿勢)
行動の変化
前足で口や喉を掻きむしる
パニック状態になって走り回る
よだれを大量に垂らす
咳き込むが異物が出ない
口の中の様子
口を大きく開けたまま閉じられない
舌を出したまま
歯茎が赤く充血している
重症症状(完全閉塞・低酸素状態)
チアノーゼの出現 チアノーゼとは、血液中の酸素が不足して、舌や歯茎などの粘膜が青紫色になる症状です。これは非常に危険なサインで、すぐに対処しなければ数分で意識を失います。
舌が青紫色に変色
歯茎が青白い〜青紫色
目が充血して飛び出したように見える
意識が朦朧としている
末期症状
ぐったりして動かない
意識を失う
呼吸が止まる
心停止
犬のサイズ別:3つの異物除去法
窒息時の対応方法は、犬のサイズ🛒によって異なります。ペット救急の専門家によると、犬の体格に合わせた適切な方法を選ぶことが重要です。
| 犬のサイズ | 第一選択 | 第二選択 | 不適応 |
|---|---|---|---|
| 小型犬(〜10kg) | 背部叩打法 | チェストトラスト法 | ハイムリック法 |
| 中型犬(10〜25kg) | 背部叩打法 | ハイムリック法 | 大型犬(25kg〜) |
| ハイムリック法 | 背部叩打法 |
方法1:背部叩打法(バックブロー)
背部叩打法は、小型犬・中型犬に最も効果的で、安全性が高い方法です。
対象:小型犬〜中型犬、意識のある犬
手順:
犬の体位を整える
- 小型犬:抱き上げて頭を下に向ける - 中型犬:立たせたまま、または座らせた状態で
叩く位置を確認
- 肩甲骨の間(背中の真ん中あたり) - 脊椎の真上は避ける
手のひらの付け根で強く叩く
- 5回連続で強く叩く - 「パン!パン!パン!パン!パン!」とリズミカルに - 小型犬は力加減を調整(骨折リスク)
咳を促す
- 犬が咳をして吐き出そうとするタイミングに合わせるとさらに効果的 - 叩いた後、口の中を確認
効果がなければ繰り返す
- 5回を1セットとして、異物が出るまで繰り返す - 3セット(計15回)試しても出ない場合、次の方法へ
注意点:
叩く力は「強く」が基本だが、小型犬は骨折に注意
脊椎を直接叩かない
叩きすぎて内臓を傷つけないよう注意
方法2:ハイムリック法(腹部突き上げ法)
ハイムリック法は、大型犬に対して最も効果的な方法です。腹部を圧迫することで横隔膜を押し上げ、肺から一気に空気を押し出し、異物を飛ばします。
対象:中型犬〜大型犬、意識のある犬
⚠️警告:小型犬には使用しないでください。内臓損傷のリスクが高すぎます。
手順:
犬の後ろに立つ
- 大型犬:飼い主が膝立ちまたは立った状態 - 中型犬:座った犬の後ろに回り込む
拳を作る
- 左手でげんこつを作る - 親指側の平らな面を犬のお腹に当てる
圧迫位置を確認
- 上腹部(みぞおちとへその中間部分) - 剣状突起(胸骨の一番下の部分)や肋骨には当てない - 犬を横から見て、肋骨の終わる位置より少し後ろ
右手で左拳を覆う
- 両手を組んで拳を固定
斜め上方に圧迫
- 拳を斜め上方向(背中に向かって)に強く突き上げる - 「グッ!」と瞬間的に圧力をかける - 5回連続で行う
効果を確認
- 口の中に異物が出てきていないか確認 - 出ていなければ5回を1セットとして繰り返す
注意点:
圧迫が強すぎると肝臓や脾臓を損傷する危険がある
妊娠中の犬には使用しない
異物が出ても必ず動物病院🛒で内臓検査を受ける
方法3:チェストトラスト法(胸部圧迫法)
チェストトラスト法は、ハイムリック法ができない小型犬や、妊娠中の犬に使える代替法です。
対象:小型犬、妊娠中の犬、腹部に疾患がある犬
手順:
犬の体位
- 四つん這いの状態で立たせる - または横向きに寝かせる
手を置く位置
- 犬の後ろから両手のひらを立てた状態で、両肩に当てる - または、横向きに寝かせた場合は胸の両側
圧迫方法
- 両肘を大きく広げて、同時に強く圧迫 - 胸を「ギュッ」と挟むように - 5回連続で行う
効果を確認
- 咳と一緒に異物が出てこないか確認 - 出なければ繰り返す
注意点:
中型犬以上にはあまり効果がない
胸を圧迫しすぎると肋骨骨折のリスク
意識がある犬への対応:完全手順
窒息を発見してから動物病院🛒に到着するまでの完全な手順を解説します。
ステップ1:状況の把握(5秒)
本当に窒息しているのか確認
完全閉塞か部分閉塞か判断
周囲の安全確認
ステップ2:助けを呼ぶ(同時進行)
他に人がいれば「119番に電話して」「動物病院に電話して」と指示
一人の場合は、スマホをスピーカーモードにして動物病院に電話しながら処置
ステップ3:口の中を確認
口を大きく開けて、目で見える位置に異物があるか確認
見える場合のみ、指でかき出す
見えない異物を無理に取ろうとしない(奥に押し込む危険)
ステップ4:異物除去法を実施
犬のサイズに応じた方法を選択:
小型犬の場合:
背部叩打法(5回)
口の中確認
効果なければチェストトラスト法(5回)
口の中確認
繰り返し
中型犬の場合:
背部叩打法(5回)
口の中確認
効果なければハイムリック法(5回)
口の中確認
繰り返し
大型犬の場合:
ハイムリック法(5回)
口の中確認
効果なければ背部叩打法(5回)
口の中確認
繰り返し
ステップ5:動物病院へ搬送
異物が出た場合:
出た異物を保管(獣医師に見せる)
犬が呼吸を回復しても、必ず動物病院へ
圧迫による内臓損傷の可能性があるため
異物が出ない場合:
処置を続けながら動物病院へ急ぐ
可能なら二人体制(一人が運転、一人が処置)
車内でも処置を継続
意識を失った犬への対応
異物除去が間に合わず、犬が意識を失った場合の対応です。
ステップ1:意識・呼吸の確認
名前を呼んで反応を見る
胸の動きで呼吸を確認
脈拍を確認(後ろ足の付け根の内側)
ステップ2:異物の確認と除去
意識がない犬は喉の筋肉が緩むため、口を開けやすくなります。
口を大きく開ける
舌を引き出す
喉の奥を覗き込む
見える異物のみ、指でかき出す
見えない場合は無理に探さず、次のステップへ
ステップ3:CPR(心肺蘇生法)の開始
呼吸や心拍が止まっている場合、ただちにCPRを開始します。
心臓マッサージ🛒30回
人工呼吸2回(鼻から)
これを繰り返す
詳しいCPRの方法は、別記事「犬のCPR(心肺蘇生法)」をご参照ください。
ステップ4:動物病院への搬送
CPRを続けながら、一刻も早く動物病院へ。可能なら二人体制で、一人が運転、一人がCPRを継続します。
絶対にやってはいけない5つのこと
1. 見えない異物を無理に取ろうとする
指を喉の奥に突っ込んで探ると、異物をさらに奥に押し込んでしまう危険があります。目で見える位置にある異物のみ取り除いてください。
2. ピンセットや箸で異物を取ろうとする
犬が暴れたときに喉を傷つける危険があります。また、異物を割って飲み込ませてしまう可能性もあります。
3. 水や食べ物を与える
窒息している犬に水や食べ物を与えると、誤嚥してさらに状態が悪化します。異物が取れるまで何も与えないでください。
4. 小型犬にハイムリック法を使う
小型犬は内臓が小さく繊細です。ハイムリック法の強い圧迫で肝臓や脾臓が破裂する危険があります。
5. 「様子を見る」
窒息は数分で命に関わります。「そのうち自分で吐き出すだろう」「少し様子を見よう」は禁物です。ただちに行動してください。
窒息を予防する10の対策
食事に関する予防
適切なサイズのフードを選ぶ
- 小型犬には小粒のフード - 大型犬でも丸飲みする子は小〜中粒を
早食い防止
- 早食い防止食器を使う - 1回の量を減らして回数を増やす - 手から少しずつ与える
危険な食べ物を避ける
- 硬くて割れやすい骨 - 大きな肉の塊 - 牛のひづめ、豚の耳などの硬いおやつ
おもちゃに関する予防
サイズの合ったおもちゃを選ぶ
- 口に完全に入らないサイズ - 飲み込めない大きさ
壊れたおもちゃは処分
- 破片が出始めたらすぐ交換 - ロープのほつれ、ぬいぐるみ🛒の破れに注意
留守番中はおもちゃを片付ける
- 誰も見ていないときの事故を防ぐ
環境に関する予防
小物を犬の届く場所に置かない
- ボタン、ビー玉、電池など - 子供のおもちゃ🛒に注意
食事中は目を離さない
- 特に複数飼いの場合、早食い競争になりがち
健康管理
定期的な歯科チェック
- 気管虚脱などの呼吸器疾患は窒息リスクを高める - 早期発見・治療が重要
高齢犬は特に注意
- 飲み込む力が弱くなる - 柔らかいフードに切り替える
まとめ:窒息対応は「速さ」が命
犬の窒息は、一刻を争う緊急事態です。この記事で学んだ知識を、ぜひ実際に練習してみてください。
窒息対応の重要ポイント:
窒息のサインを見逃さない(前足で口を掻く、チアノーゼ)
犬のサイズに合った方法を選ぶ
- 小型犬:背部叩打法 → チェストトラスト法 - 中型犬:背部叩打法 → ハイムリック法 - 大型犬:ハイムリック法 → 背部叩打法
5回を1セットとして繰り返す
異物が出ても必ず動物病院へ
意識を失ったらCPR開始
予防が最も重要:早食い防止、適切なおもちゃ選び
今日からできること:
愛犬を抱き上げて、背部叩打法の位置を確認(実際には叩かない)
大型犬の場合、ハイムリック法の圧迫位置を確認
早食い防止食器の導入を検討
危険なおもちゃがないかチェック
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窒息は予防が最も重要ですが、万が一のときに備えて、この記事をブックマークしておいてください。緊急時に冷静に対応できるかどうかが、愛犬の命を左右します。
あなたの知識と行動が、愛犬の命を救います。






